能登地震発生3カ月に関する社説・コラム((2024年4月1日)

能登地震3ヵ月 備えの教訓、学び生かそう(2024年4月1日『河北新報』-「社説」)


 災害は「進化」する。気候変動の影響で風水害が頻発、激甚化する。一方で社会の変化に伴い、従来とは異なる課題や被害も生じる。

 能登半島地震は、過疎・高齢化が進む地域の備えの弱点が、以前にも増して際立った災害と言える。東日本大震災を経験した東北も改めて、能登の教訓を学ぶ必要がある。

 能登では老老介護そのままに、高齢者同士が支え合って避難する姿が目立った。人口減により、地域で要援護者の避難を支える人材は先細りする。災害発生直後、頼りになるのは家族や近所の人たち。自助、共助の力の維持が欠かせない。

 南海トラフ地震の被害が心配される高知では、健康づくりの一環で「百歳体操」に力を入れる。防災とは無関係のようだが、天寿を全うするまで歩くことができれば、避難の援助は少なくて済む。

 避難はまず屋外に出る必要があるが、能登では犠牲者の多くが家屋倒壊で亡くなった。古い木造家屋が多いほか、高齢化率が高く、経済的な理由などで耐震工事が進まなかったという指摘がある。

 大半の自治体には、旧耐震基準の木造住宅の耐震診断と耐震改修の補助制度がある。行政は高齢者が改修に前向きになるよう、工務店にコストを抑えられる耐震改修工法の普及を図り、工費を補助金額内に収める努力をすべきだ。

 通信技術の発達により、現在は誰もがスマートフォンで情報を迅速に入手できる一方、端末を使い慣れない高齢者が、災害情報から取り残される懸念が生じている。

 その点で、地域に音声で避難を呼びかける防災無線の果たす役割は、依然として大きい。揺れや停電で防災無線が使えないといった事態に陥らないよう、自治体は二重三重の対策を講じてほしい。

 真冬の避難生活で、体調を崩す高齢者が相次いだ。寒さ対策として毛布、暖房の準備はもちろん、寝起きが楽で、床から体を離すことで体温を保持できる段ボールベッドの重要性も再認識された。

 高齢者は基礎疾患などで免疫が落ちている場合が多いほか、低体温症も体温調節機能が衰えた高齢者が発症しやすい。心身の健康をチェックするため、見守りの環境を整えることも教訓の一つだ。

 能登では道路、ライフライン、通信が断絶し、多くの集落が孤立した。外からの支援がなくても一定期間、自立可能な地域づくりを進めることが対策になる。

 井戸や川に生活用水を確保する機材、避難所や福祉施設などに太陽光発電機、蓄電池を配備してはどうか。いずれもトイレや冷暖房の機能維持につながり、高齢者の体調管理面でもプラスに働く。

 東北6県の高齢化率は、宮城を除き、石川を上回る。能登の問題は、東北の過疎地でも起こり得る。教訓を将来の備えに生かそう。

 

発生3カ月 生活取り戻す支援緩めず(2024年4月1日『新潟日報』-「社説」)

 

 復旧が徐々に進んでいる一方で、通常の生活に戻れない人がいまだに多くいることを、政府や自治体はしっかり受け止めねばならない。

 被災者に寄り添ったきめ細かな支援を、緩めずに続けることが求められる。

 能登半島地震は1日で発生から3カ月になった。関連死を含めた死者は1カ月前より3人増え、244人になった。いまだに8千人以上が避難所での生活を余儀なくされている。

 仮設住宅は石川県で約900戸が完成したが、本格化するのはこれからだ。避難者が故郷に戻って来ることができる環境づくりが急がれる。過疎化や高齢化に拍車をかけないように復旧を進めていくことが重要だ。

 被害が大きかった輪島市珠洲市は、市外への避難者が人口の約3割と推計されている。

 ◆8千戸で断水が続く

 深刻なのは、約8千戸で断水が続いていることだ。共同通信の被災者アンケートでは、一番困っていることについて「断水が続いている」と答えた人が最多だった。

 自治体の主な浄水場が被災した影響とみられる。2016年の熊本地震では、発生3カ月後に2戸を除いて断水が解消していたことと比べても、厳しい状況にあることがうかがえる。

 水道が復旧した地域でも、業者不足で住宅内の配管の工事が遅れているため、実際には水道が使えない家庭がある。

 トイレを使用できない家庭もまだ多い。奥能登2市2町は下水道の普及率が全国平均を下回り、多くの住宅が浄化槽を利用しているが、液状化で浄化槽が地表に浮き上がったり、配管が外れたりする被害が相次いでいるためだ。

 避難者が自宅に戻る足かせになっていることは否めない。政府は、浄化槽の修理を全額公費で負担することを決めた。十分な工事業者を確保することも求められる。

 政府は3月下旬、液状化被害の支援拡充を表明した。対象地域を限定せずに、地震で傾いた住宅の修繕に最大120万円を補助することなどを決めた。

 2月に生活再建支援として最大600万円の支給を決めたが、石川県内6市町に限定し、本県などから、同じ災害の被災者を地域や年齢などで区別した対応は公平性を欠くといった批判が出ていた。

 宅地の液状化被害は新潟、富山、石川のうち、本県が最も多い。県内での住宅被害は2万棟を超えた。

 実態を踏まえた新たな支援策が示されたことは、被災者の安心につながるといえよう。

 ◆実態に合う支援策を

 支援では被災自治体の再発防止事業に対する国の補助率も上げたが、実施には10戸以上がまとまることを条件としている。

 液状化の被害は1964年の新潟地震など過去の地震で被害のあった地域と重なった。

 そうした地域では今後も被害が繰り返される可能性があるという。自治体はしっかり対策を講じてもらいたい。

 問題なのは、液状化による建物被害の実態と国の判定基準に乖離(かいり)があることだ。

 液状化被害を判定する国の基準は、全壊は「床上1メートルまでの全ての部分が地盤面の下に潜り込み」としており、片方の端が潜り込んで傾いているケースは該当しない。

 識者は生活再建のための支援になっておらず、判定基準を見直す必要があると指摘している。今後、検討が必要だ。

 明るい兆しとしては、本県を含めた被災4県を対象にした観光復興支援「北陸応援割」が好調なことだ。ホテルや旅館などは、被災後に相次いだキャンセルで受けたダメージの回復につなげたい。

 操業停止が続く中小企業もみられる。農林水産業や伝統産業も含め、支援を加速させたい。

 岸田文雄首相は2024年度予算成立後の会見で、復興基金の設置方針を明らかにした。

 基金は、自治体が実態に合わせ柔軟に対応できる利点があり、04年の中越地震でも活用された。被災地のニーズを的確にくみ取り、復旧や復興に生かしてもらいたい。

 発生3カ月でさまざまな課題が見えている。

 検証し、復興につなげるとともに、私たちも次の災害を見据えた万全な備えとしたい。

 

被災者を支える/誰も取り残さないために(2024年4月1日『神戸新聞』-「社説」)

 

 能登半島地震の発生からきょうで3カ月となるが、被災地は生活再建の糸口すら手探りの状態にある。

 元の住まいに戻れるのか。建設される災害公営住宅はいつ、どこに整備されるのか。事業の再建にどんな支援があるのか。困難に直面する被災者が復旧、さらに復興するまでの課題は多岐にわたり、経済的、精神的負担が日に日に重くのしかかる。

 大災害が起きるたび、反省や教訓を生かし対策は強化されてきたが決して十分ではない。政府や自治体は、個々の実情に即したきめ細かな支援が切れ目なく届くよう、知恵を絞る必要がある。

 能登の被災地では、65歳以上の割合が50%を超える地域が多い。自ら申し込まないと支援を受けられない「申請主義」が高齢の被災者らを切り捨てているとの批判は根強い。

 その壁を越える手だての一つとして、伴走型の支援手法「災害ケースマネジメント」がある。自治体が福祉や法律の専門家らと連携し、被災した人を戸別訪問して悩みや課題を丁寧に聞き取り、公的支援や民間のサポートにつなげる仕組みだ。

 東日本大震災では仙台市岩手県大船渡市で実践され、能登半島地震の被災地でも動き出した。ただ、現状では支援の網から漏れる被災者を救う取り組みや財政支出の根拠となる法律はなく、自治体によって対応に格差が生じかねない。日本弁護士連合会などは国に法制化や自治体への財政支援を求めてきた。

 政府は昨年5月、災害ケースマネジメントを市町村などの努力義務として防災基本計画に盛り込んだ。しかし、被害が大きい自治体ほど人手が不足し支援の漏れが生じがちだ。必要なスキルを持つ人材や財源を現地の自治体だけで確保できない恐れもある。専門知識を生かせる民間との連携や他の市町村の応援、都道府県との役割分担が欠かせない。

 最大300万円が支給される被災者生活再建支援法の対象が「世帯」であることも、個人の事情が考慮されない問題点として指摘される。

 能登地震で政府は高齢世帯などを対象に、300万円を特例で上乗せする方針だが、現行の支援法で不十分というなら、法自体を抜本改正すべきではないか。

 兵庫県弁護士会津久井進弁護士は「家の壊れ方だけを指標とするのでは被災者の分断につながりかねない。その人が暮らせるかどうかで考えるべきであり、生活の困難さへの理解が欠けている」と話す。

 取り残される人が減れば、生活再建は早まる。必要なのは、暮らしに根ざした息の長い支援だ。命をつなぐ最善の策を共に考え、法制度や財政措置で後押しせねばならない。

 

エープリルフール(2024年4月1日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 

 きょう創刊20年を迎える「虚構新聞」は架空のニュースを発信する個人のウェブサイトだ。風刺でにやりとさせるネタを、これまで千本以上掲載している

▼「最優秀喜劇賞に『国会審議』 全日本喜劇アカデミー発表」は先月の記事。国会議員が台本を棒読みする、同じせりふを何度も繰り返す、といった非常に高レベルの茶番劇で、観客は笑うしかない―と皮肉った

エープリルフールである。欧米の報道機関はよく本当のような作り話で読者らを楽しませるが、もっともらし過ぎて惑わされる人が続出し「冗談にならない」と、お叱りを受けることもままあるらしい

▼うそから出たまこととなった例も少なくない。英紙が「エリザベス女王がホームページを開設」のうそ記事を載せた時は、1年足らずで実現してしまった。「虚」と「実」の境目は思う以上にぼんやりしている

▼ただ、うそと聞けばジョークではなくフェイクを連想してしまうのが今のご時世。能登半島地震の折も偽情報がばらまかれ、被災地を混乱させた。実際に放送されたニュース動画を加工するなど手口も巧妙化の一途という。何が正しいかを判断する力がますます必要な時代だ

▼もっとも、年に1日くらいは親しい間柄でかついだり、かつがれたりして笑い合う気持ちの余裕は持っていたい。上品なうそを心掛けつつ…。

 

能登半島地震3カ月 住民の声くんだ復興計画を(2024年4月1日『中国新聞』-「社説」)

 石川県で能登半島地震が発生し、きょうで3カ月になる。被災者の生活再建は道半ばだ。4千人超が避難所に残り、ホテルや旅館への2次避難者も3千人を超す。断水の解消は、県の示した見通しより遅れ、珠洲市のほぼ全域や輪島市などでまだ続く。

 何より気がかりなのは倒壊家屋や、がれきの撤去が思うように進んでいないことだ。復興への入り口であり、長引けば被災者の気持ちがなえかねない。被害認定調査のノウハウを持つ自治体職員や民間の支援、一般ボランティアの受け入れを増やしたい。仮設住宅の整備や医療の維持にも、てこ入れが必要だ。

 県は先ごろ、2032年度までに取り組む復興計画の骨子を示した。災害に強い地域づくり、なりわいの再建、暮らしとコミュニティーの再建など5項目の施策である。

 被災自治体をはじめ、次世代と地域活性化に挑む県内の民間人、東日本大震災で復興事業に関わった有識者らとの議論を踏まえたものだ。理念に「創造的復興」を掲げたのは、うなずける。

 人口減少や高齢化が進んでいた能登は今回、柱の農林水産業や観光業が厳しさを増した現実がある。地方の多くが直面する地域課題の解決モデルを目指すという。

 5項目の施策では、なりわい再建の道筋を示せるかが鍵となる。海産物や輪島塗の店が並んだ「輪島朝市」は大規模火災で焼失し、国名勝の棚田「白米(しろよね)千枚田」では広範囲に亀裂が入った。暮らしや祭りを支える密なコミュニティーは、広域避難に加え、仕事や教育環境を考えた若い世代の流出で存続が危ぶまれる。

 観光客や移住者を引きつけてきた能登らしさは、地域経済の要でもある。再建に乗り出す民間有志の動きが既にあり、地元を勇気づける象徴となるだろう。

 復興は地域再生と表裏一体だというのが、東日本大震災をはじめとする災害の教訓だった。能登で留意したいのは、なりわいの担い手や被災者の高齢化が際立つ点だ。さらに海底隆起した漁港や沿岸の崩れた道路など、なりわいの前提となるインフラの損傷も深刻である。政府としても復旧・復興支援本部を設けており、長い目で自治体への支援が欠かせない。

 東日本大震災の復興で見えた負の側面も教訓とすべきだろう。巨額の高台移転を進めたものの、工事が長引く間に人口が大幅に減り、空き地が目立つ場所は少なくない。

 一方で、行政の防潮堤計画に反対し、漁業を通じて海と共生するまちづくりを住民主導で進めた地域や、若者による新ビジネスなどで観光を再興した地域もある。住民による議論を丁寧に深め、コミュニティーの力を生かした過程が功を奏した。

 石川県は被災地を巡回する対話集会を経て、5月に復興計画をまとめる。理念の実現には、住民の声を十分にくむことが第一歩だろう。

 人口減少が加速する地方にとって、能登の復興は人ごとではない。関心を持ち、物心両面でサポートしたい。

 

能登半島地震3カ月 新しい復興モデルを(2024年4月1日『山陰中央新報』-「論説」)

 能登半島地震から3カ月。懸案だった断水がほぼ解消し、宿泊施設も稼働する。これをてこに作業員やボランティアの受け入れを本格化させ、倒壊家屋の解体など復旧・復興を加速させたい。被災地ではまだ約4千人が避難所に残り、ホテルや旅館で暮らす2次避難者も約3千人いる。住まいを確保し、日常生活を取り戻すことに全力を挙げなければならない。

 復興の理念として石川県は「必ず能登へ戻す」「人口減少など課題を解決しつつ、能登ブランドをより一層高める『創造的復興』を目指す」を掲げる。実現には新しい復興モデルを国と一緒に打ち出す努力が必要だ。復興計画の作成では、東日本大震災からの復興に携わった自治体職員やNPO、企業の参加を求め経験を生かすべきだ。地域の未来を話し合う会合も集落ごとに開き、多くの人を巻き込みたい。

 復興政策のベースは、被災者一人一人に行政側が寄り添う取り組み「災害ケースマネジメント」である。地元に戻る意思や仕事、教育で直面する問題などを聞き、復興の状況も伝えながら生活再建を支援していく。これに必要な人員は、被災した自治体が国の助成も得て基金をつくって確保するよう提案する。

 避難先での生活が長くなればなるほど、仕事や子どもの教育の関係から戻り難くなる。早期の帰還のためには住宅と仕事の確保が大前提となる。

 被災地内では、約5千戸の仮設住宅を早く完成させ、空き家も被災者向けに活用する。災害公営住宅の建設も促進して十分な数を確保したい。

 公営住宅には多くの高齢者が入居するだろう。後から他の施設に移らずに済むよう見守りやケアの付いた部屋、介護施設の併設など福祉の側面も入れる工夫が望まれる。

 仕事の確保、なりわいの再建も不可欠。当面は土木作業など復興に関わる仕事があるとしても、人口減少に伴って医療や福祉などの仕事は減る。広域避難者が早く戻ることが仕事の維持につながることを意識すべきだ。まずブランド力のある輪島塗などの伝統産業や、「輪島朝市」など観光産業、漁業の再建に力を入れる。能登産品の販売拡大に協力したい。

 国レベルでは、この地震から教訓を学び、次に備えなければならない。能登半島では自動車専用道路「のと里山海道」などの被害が深刻だった。半島部ではアクセス道路が限られ、災害による通行止めは救命や復旧の遅れにつながる。

 骨格となるような道路は、大地震が起きても通行できるように路盤などの補強が必須だ。通行止めの期間を短くするため、集落ごとに復旧作業に使う重機を保管する備えも有効だろう。

 災害時に役立つとアピールしてきたマイナンバーカードは、読み取り機の不足などから避難所の運営には使えなかった。大災害に備えて機器をそろえ、避難者を管理するシステムを構築しておくことは国の役割だ。準備不足は明らかである。

 土木学会は首都直下地震の被害額を約20年間で約1千兆円と推定、事前対策により被害を大幅に減らせると提言した。

 未曽有の災害はどこでも起きる。孤立対策としての食料や水の備蓄、生活用水の確保策の充実に加えて、都市部への集中といった脆弱(ぜいじゃく)な国土構造の抜本的な見直しに今すぐ着手すべきである。

 

能登地震3カ月】復興へこれからが正念場(2024年4月1日『高知新聞』-「社説」)

  

 震源に近かった石川県能登地方もようやく被害の全容が見えつつあるようだ。しかし、復興や生活再建の道は依然厳しく、新たに見えてきた課題も多い。
 元日の静かな北陸を最大震度7の揺れと津波が襲った能登半島地震は発生から3カ月がたった。
 内閣府の集計によると、3月26日現在で死者は石川県で244人に上り、負傷者も石川県を中心に8府県で1300人に及んでいる。
 住宅の全半壊、一部損壊などの被害も11万棟を超えた。地震発生から1カ月の段階では3万棟に達していなかったが、発生2カ月後には約8万棟に増えた。
 能登地方では各地で土砂災害が起き、道路が寸断。被災地の救援や調査が難航していることが伝えられてきた。状況が改善し、住宅被害数の把握も進んだのだろう。
 ただ、道路はいまだ完全復旧していない。道路や宅地は液状化の爪痕も大きい。被災者は厳しい生活を強いられ、事業の再開にめどがたたない商工業者も多い。被害の大きさが改めて分かる。
 生活に欠かせない水道の復旧も遅れている。能登地方の5市町で計9千戸以上の断水が続く。珠洲市では地震後、最大約4800戸が断水していたが、その10分の1も解消していない。
 水道が復旧したにもかかわらず、下水管の損傷が激しく、水が流せない事態も起きている。下水管の耐震化も欠かせないことを物語る。
 復興に欠かせない被災家屋の撤去や修繕も遅々として進んでいないようだ。被災家屋に空き家が多いことも課題になっているという。
 こうした状況から、被災地の復興や住民の生活再建はこれからが正念場といえる。自治体の対応には限界があり、政府がしっかり予算を確保し、手厚く対処する必要がある。全国からの被災地支援も引き続き欠かせない。
 教訓は他にも多い。防災行政無線の屋外スピーカーの多くが、損壊や停電の長期化によるバッテリー切れで一時使用できなくなった。余震が続く中、通信網が遮断され、防災行政無線も使えないとなれば、住民の命に関わりかねない。
 住宅被害や道路の寸断で、職員が登庁できず、地震発生当日に出勤できた職員が全体の2割にとどまった自治体もあった。被災状況の把握や避難所への物資輸送などで人手が足りず、混乱を極めた。
 地域防災計画で定めた食料などの必要物資を半数超の指定避難所に備蓄していなかった自治体もある。そのため、防寒具や食料が不足した避難所もあったようだ。
 能登半島地震は過疎化が進む地方が大きな地震に見舞われた場合の課題を如実に示している。過去、対策の必要性が叫ばれてきたものもあれば、重視されてこなかったものもあるだろう。
 南海トラフ巨大地震が想定される高知も学び、論議し、備えていかなければならない。

 

能登地震3ヵ月 誰も取り残さない支援を(2024年4月1日『西日本新聞』-「社説」)

 元日のだんらんを襲った能登半島地震の発生から、きょうで3カ月となる。

 石川県の被災地の一部で仮設住宅への入居が始まったものの、今なお8千人以上の被災者が、地元の避難所や遠隔地の2次避難所などでの生活を強いられている。

 道路が寸断され、被災箇所に人や車が入れなかった影響で、近年の震災に比べて復旧活動の遅れが際立つ。倒壊した家屋の解体やがれきの撤去は進まず、奥能登では手つかずの場所も多い。

 先が見えぬ不安にさいなまれる人たちを勇気づけ、誰一人取り残さない支援を実現しなければならない。

 正念場を迎えているのが、過酷な避難生活による体調悪化やストレスに起因する災害関連死の予防である。

 県の発表では死者240人以上のうち、災害関連死とみられるのは15人(3月29日現在)という。多くの専門家は氷山の一角に過ぎず、実際はもっと多い可能性があると指摘している。

 2016年の熊本地震の場合、熊本県が発生2カ月で公表したのは20人だったが、最終的に218人となった。

 能登半島は元々、高齢化が進んでいた。断水でトイレが使いづらいなど不自由な生活が長期化しており、心身にかかる負担の大きさは想像に難くない。関連死が起きやすい状況にある。

 行政、福祉、医療機関が連携し、地震で助かった命を何としても救ってほしい。

 気がかりなのは、在宅の被災者を行政が完全に把握できていない点だ。コミュニティーが崩壊した地域では、お年寄りをはじめ自宅に戻った人たちが孤立する恐れがある。早急に対策が必要だ。

 生活再建の支援も加速しなければならない。注目したいのは、一人一人の生活状況に応じて官民が伴走型の支援をする「災害ケースマネジメント」が能登半島でも動き出したことだ。

 民間の福祉団体やNPOなどと自治体が協力して避難所を巡回し、個別相談に応じている。必要な行政手続きも手助けする。

 東日本大震災熊本地震のほか、集中豪雨の被災地などでも実践されている。政府は昨年、国と自治体が実施に努めることを防災基本計画に位置付けた。成果が認められ、法制化を求める声もある。

 日本はハード面に比べ、ソフト面の対策が苦手といわれる。過去の教訓を生かし、こうした取り組みを広げていくべきだ。

 3月下旬、輪島市など被災した3市町の中学生約400人の集団避難が終わった。金沢市から2カ月ぶりに珠洲(すず)市に戻った女子生徒は「今回の地震で、ちょっと傷ついたこともあったけど、前に進んでいこうかなと思ってます」と話していた。

 厳しい境遇にあっても前を向くその姿勢を、息長く支え続けたい。

 

能登半島地震3カ月 日常取り戻す支援こそ(2024年4月1日『沖縄タイムス』-「社説」)

 県道や国道はまだ約50区間で通行止め。倒壊した家屋のがれきや、傾いた電柱が残る通りも-。

 能登半島地震の発生からきょうで3カ月たった。復興はいまだ途上にある。被災者が日常生活を取り戻すことに全力を注がなければならない。

 一部の地域ではなお8千戸近くで断水が続き、食事やトイレにも事欠く状態だ。6月まで断水が続く可能性のある地域もあり見過ごせない。

 石川県は3月末時点で地震による死者が、災害関連死15人を含めて244人と発表した。

 ライフラインの長期停止は関連死の増加にもつながりかねない。国や自治体は断水の解消に全力を注いでほしい。

 被災地ではまだ約4千人が避難所に残り、ホテルや旅館で暮らす2次避難者も約3千人いる。

 住まいの確保はもちろんのこと、避難が長期化するほど避難所の環境整備も重要だ。どの場所においても被災者の命と健康を守る取り組みの継続が求められる。

 先月初旬から仮設住宅の入居が始まったものの、元々住んでいた地域で入居できないという人も少なくない。高齢者にとっては孤立の要因にもなりかねず、地域のつながりを分断しない方策が必要だろう。

 いまだに在宅避難者の把握が進んでいない所もある。

 関連死の高リスク者や要支援者のニーズを聞き取り、医療や介護サービスなど日常のケアの再開を急いでほしい。

■    ■

 高齢・過疎化が進む被災地では、復興やコミュニティーの再構築に携わる人手不足が顕著だ。

 今月以降、全国の自治体から石川県庁や県内の市町などに少なくとも計360人の職員が中長期で派遣されるという。しかし、派遣数は当初の要望の7割超にとどまる。

 東日本大震災で岩手、宮城、福島の3県には年に計2千人規模で入った時期があった。国は派遣元の負担軽減を図るなど調整してほしい。

 復興を進めるには、仕事やなりわいの再建も不可欠だ。まずは輪島塗などの伝統産業、観光や漁業の本格的な再開へ、地元の意見を聞きながら前に進めたい。

 そのためには県外へ広域避難した人たちの意向確認も重要だろう。避難が長引くほど戻ることは難しくなる。復興プロセスでは仕事のあっせんなど戻るきっかけづくりも必要だ。

■    ■

 復興に向けた観光支援として国が始めた「北陸応援割」は、各旅館へ割り振られた予算枠が限られたために、補助が適用されなかった客のキャンセルが続出する課題が露呈した。

 そもそも被害が大きかった地域は営業できる旅館がなく「支援」というには不十分である。

 災害時に役立つとアピールしてきたマイナンバーカードも、読み取り機の不足などで避難所の運営に使えないなど、地震が頻発する国でありながら準備不足は明らかだ。

 復興へ国の役割の抜本的な見直しも進めるべきだ。

 

 (2024年4月1日『しんぶん赤旗』-「潮流」)

穏やかな波がうちよせる海岸は恋人たちの聖地でした。悲恋伝説が語り継がれ、愛が成就するという幸せの鐘を鳴らすカップルの姿も絶えませんでした

能登町にある恋路(こいじ)海岸。そこはいま崩れてきた巨石が転がる無残な光景に。海の様子を見にきていた地元の漁師は津波で船が流され、「先がまったく見えない状態」と嘆きます

▼恋路海岸から珠洲市の見附島(みつけじま)まで続く海岸線は「えんむすびーち」と呼ばれます。しかし地域のよりどころとなってきた見附島は先の地震津波で3分の1ほどに崩落。海岸線を沿う道路の両脇には倒壊した家々や傾いた電柱が連なっています

▼年明けを襲った能登半島地震から3カ月。先週、被災地を訪ねましたが、いまだに復旧のめどさえ立たない所は多い。断水も珠洲市のほぼ全域で解消されず、輪島市能登町でも水が出ない家が少なくありません。つぶれた建物や倒れた電柱、ガタガタの道が続き、まち全体が傾(かし)いでいるような錯覚さえおぼえます

▼雪の中を歩いて仮設風呂に入りにきたお年寄りはこれが唯一の楽しみだといいます。珠洲市内の避難所で支援活動に携わってきた女性は「必要なのは住まいと生業(なりわい)。残念なのは、ずっと景色が変わらないこと」だと話します

▼ふるさとに残るため地元のフィットネスクラブに就職したという輪島の青年は今後を憂いていました。もともと過疎が進んでいたのに、もっと人が減っていく。置き去りにしてきた地方をどう復興するのか。その展望を示してほしいと。