倒壊したまま残る石川県珠洲市宝立町地区の家屋(6月28日、ドローンから) =共同
昔、洋酒のCMにこんなのがあった。夜の路上で男性が困った様…(2024年7月26日『東京新聞』-「筆洗」)
昔、洋酒のCMにこんなのがあった。夜の路上で男性が困った様子の女性にそれなりの額のお金を差し出している
▼この様子を見ていた友人が「だまされたな」という。「今の人、病気の子どもがいるって言ったろ。あれ、うそなんだ」。そう聞いても男性はほほ笑んでいる。「よかった。病気の子どもはいないんだ」-
▼自分なら全速力で女性を追うなあ。CMを見るたびに己の心の狭さを非難されているような気になったが、こっちのうそばかりは「よかった。救助を求める人はいなかったんだ」とはなるまい。能登半島地震の発生直後、交流サイト(SNS)にうその救助要請を投稿した容疑者が偽計業務妨害の疑いで逮捕された
▼「倒壊した家屋に家族が挟まれた」などとまったくのうそを十数回も投稿していたという。情報を受けた警察が実際に出動している。窮地にある人をなんとか助けたいと願い、懸命に捜し回った人がいる。そう想像しただけでうそ投稿に腹が立つ
▼救助、捜索に一刻の猶予も許されぬ震災直後である。うそで救出作業が振り回されたら助かるはずの命まで危険が及ぶ。災害時の虚偽情報には厳しく対処せざるを得まい
▼「震災に便乗して自分の投稿に注目を集めたかった」という。注目ほしさで現地の叫び声や慟哭(どうこく)への想像力まで失ってしまったか。心ない投稿が集めるのは非難ばかりであろうに。
被害が大きかった地域では壊れた家屋や建物がそのまま残されている。日常生活に不可欠なインフラである上下水道がいまだに使えない場所も多い。手狭でプライバシーが確保されにくい避難所での生活環境や、衛生状態の悪さが避難者の心身の負担になっていることは想像に難くない。
このままの状態が続けば、さらに犠牲者数が増える可能性がある。被災地の実情を踏まえ、対策を急がなければならない。
仮設住宅は、6月末時点で必要とされる7割が完成したが、学校など1次避難所にいまだにとどまる1038人を含め、避難者は今もなお2千人を超えている。
全半壊となった住宅などを自治体が解体する「公費解体」の完了数は4%にとどまる。作業員の宿泊場所の不足や交通アクセスが不便だという背景もあろうが、あまりにも作業が遅れている。政府は復旧・復興に向けた支援のため、24年度の予備費から1389億円を支出することを決めた。早期の復旧・復興に支援を加速する必要がある。
政府は1日、被災地の早期復興を支援する拠点「能登創造的復興タスクフォース」を石川県輪島市に設置した。岸田文雄首相は発足式で「被災自治体のニーズに沿った創造的復興まちづくりを全力で支援する」と述べた。災害に強いインフラ整備と、産業や地域共同体の再生を政府一丸となって進めてほしい。
日本は地震大国である。石川県の惨状は、沖縄にとっても人ごとではない。老朽化した水道施設の改修を進めるなど、災害時に被害が拡大しないためのインフラ整備は急務だ。加えて、ハザードマップの確認やストレスの少ない避難生活などについて、官民一体の議論を進めたい。
大規模火災で焼け野原となった石川県輪島市の「朝市通り」周辺には、今も倒壊した建物が多く残っている=2024年6月30日午後4時24分、前田梨里子撮
いまだに多くの被災者が生活再建の見通しが立たない状況に置かれている。政府は、支援を強化しなければならない。
地震の死者は281人に上り、52人は避難中のストレスなどが原因の災害関連死だった。孤立を防ぐなど、きめ細かな支援と対策の徹底が求められる。
倒壊建物の解体作業も進んでいない。公費による解体の対象は約2万2000棟と推計されるが、完了したのはわずか4%だ。調査・作業の人手不足に加え、半島の先端というアクセスの悪さが原因とされる。
大規模火災が起きた石川県輪島市の朝市通りでは、倒壊した家屋がそのまま残り、時計が止まったかのようだ。作業を加速化するため、行政はあらゆる措置を講じる必要がある。
なりわいの再生も課題だ。奥能登地域では、100を超える事業所が廃業を決めたとされる。
職も家もなければ、将来の展望は開けない。被災後の不自由な生活が長期化し、精神的なつらさに苦しむ人が増えているという。
子どもたちも、仮設住宅の建設で公園などの遊び場がなくなるなど、我慢を強いられている。心のケアの重要性は増している。
今回、高齢化が進んだ過疎地を地震が襲った際の復旧の困難さが浮き彫りになった。石川県は6月、復興プランを策定し、元通りに戻す復旧でなく、地域外の人々の力も活用する「創造的復興」を目標に掲げた。
岸田文雄首相は1日、現地を視察し、「できることはすべてやる」と述べたが、現実は厳しい。
現場が直面する課題を早急に解決し、全力で支援することが欠かせない。何よりも重要なのは、政治が被災者の訴えに耳を傾け、暮らしの再建の道筋を示すことだ。
大規模な火災があった「輪島朝市」周辺は、今も焼けた建物や車が残ったままだ。公費解体が進む中、工事車両が多く出入りしていた=石川県輪島市河井町で2024年7月1日午後2時17分、長沼辰哉撮影
▲働き手が出稼ぎ中で残された高齢者や女性、子どもが犠牲になった地域もあった。田中元首相がぶち上げた「日本列島改造」ブーム以降、道路整備こそ進んだものの「過疎下の災害」はなくならなかった
▲平地が少なく、道路が限られた能登の地形も復旧の遅れにつながっている。それにしても公費解体が完了した建物が申請件数の5%未満とは……。これでは復興のビジョンも描けない
▲72年豪雨を受けて導入されたのが「防災集団移転促進事業」だ。天草では500戸以上、東日本大震災では約3万7000戸が移転した。「能登の人たちもこれから集団移転の問題に必ず直面する」。20年前の新潟県中越地震後に移転した小千谷市十二平地区の長老が小紙新潟版の連載で語っている
▲仮設住宅に入った住民同士で何度も話し合いを重ね、合意にこぎつけたという。「土地を守りたくても自分の力ではどうしようもない時がある。最後は若い者の意見を尊重するほうがいい」。大事なのは住民自ら選択することだろう。
石川県内では仮設住宅の建設が進み、新たな住まいで生活を始めた被災者が増えつつある。
しかし、被害が大きかった地域では壊れた家屋や建物がそのまま残されている。最低限のインフラと言うべき上下水道が、いまだに使えない家も多い。
交通アクセスが不便な半島という地理的条件に阻まれている面はあるにせよ、復旧はあまりに遅く、先が見えない。
責任は政府にある。予備費からの追加支出を決定したが、復旧・復興の歩みを加速させるため、最大限の支援を続けなければならない。
心配なのが、避難生活のストレスや疲労などが原因の災害関連死が増えていることだ。
家屋倒壊や火災の直接死と合わせた犠牲者は、2016年の熊本地震の276人を上回っている。さらに多くの遺族が認定を申請しており、死者はなお増えそうだ。
高齢者が心臓病や肺炎などを発症したり、持病を悪化させたりして亡くなったケースが目立つ。衛生状態が悪く、スペースも狭い避難所での生活が心身の負担になった可能性もある。
避難所に身を寄せる人は大きく減ったとはいえ、まだ約2千人にも上る。
本来守ることができた命を、これ以上失わせない取り組みが欠かせない。これからの季節は暑さ対策も重要だ。きめ細かなケアが自治体に求められる。
県は復興計画を策定した。
地域を被災前より良い状態にするとの「創造的復興」をスローガンに掲げた。9年かけて災害に強いインフラを整え、産業やコミュニティーを再生し、関係人口の拡大を図るという。
同じく創造的復興を目標とした東日本大震災では、事業が長引く中で帰還を断念する住民が相次いだ地域があった。一方で住民主導でまちづくりを進め、共同体が維持された例もある。
これからの能登をどうすべきか―。地域で議論を重ねて古里の将来像を描くことが、復興の推進力にもなるだろう。国は全力で後押ししてもらいたい。
石川県で最大震度7を記録した能登半島地震は、あす1日で発生から半年となる。遅れていた道路や水道などの生活インフラの修復が進み、住民は日常を取り戻しつつあるものの、特に被害が大きかった輪島市や珠洲市など奥能登地方の爪痕はあまりに深い。国や自治体は一体となって復旧・復興に全力を挙げなければならない。
石川県によると、地震による死者は27日現在、建物の倒壊などが原因で亡くなる「直接死」が229人。避難生活の長期化やストレスなどで体調を崩して亡くなる「災害関連死」も52人に上っており、合わせて281人となっている。災害関連死では、ほかに正式認定に至っていない例もあり、さらに増える見通しだ。
2016年の熊本地震の死者276人を上回る。平成以降の自然災害で見た場合、人的被害は11年の東日本大震災、1995年の阪神大震災に次ぐ。今後、避難生活のストレスなどで新たな犠牲者が出るのを防ぐため、被災者一人一人に対し、引き続き親身なケアを行っていくことが求められる。
避難所での生活を余儀なくされている人は、依然として2千人超を数える。長引く避難生活で心身に不調を来すことのないよう、入念に健康チェックを行ってほしい。暑さが増すこれからの時期は熱中症への注意も必要だ。高齢者は体温調節機能が低下し、熱中症にかかりやすいとされる。周囲が小まめな水分補給を促すなど気を配りたい。
地震で大切な家族や友人を失った人は多いだろう。仮設住宅に移ったとしても、顔見知りの人がいなければ気持ちがふさぎがちになりかねない。孤立状態に陥ることのないよう、これまで以上に見守り活動に力を入れる必要がある。
大規模な土砂崩落が発生した地域や、宅地の盛り土が崩れる恐れが生じている地域では、復旧が進んでいない。二次災害の恐れもあり、対策工事をするにしても長期間かかる見通しだ。
居住するのは危険だとして、他地域での生活再建を迫られる例もあるだろう。その負担はあまりに重い。国や自治体はそうした人たちを最大限、支援してほしい。
地震対応の検証も不可欠だ。関係省庁から政府への報告では、初期の段階で避難所開設時に段ボールベッドや間仕切りが設置されなかったり、食料が不足したりした例があった。道路が寸断したことで被害状況の把握が困難になったとの報告もある。長期化した断水への対応を含め、適宜見直していくべきだ。
住宅被害は石川県内で8万棟を超えた。輪島市などを対象にした調査で、耐震基準が厳格化された81年以前の基準で建てられたとみられる住宅では全壊や半壊が半数超に達したとの結果が出ている。詳細に分析し、耐震強化を急ぐなど今後に備えていく必要がある。
能登半島地震の発生から半年となる。被災地では、損壊した建物の解体が今も進んでいない。国は、復興が遅れている要因を一つずつ取り除き、地域の再生を後押しすべきだ。
長く続いた断水はほぼ解消し、道路も復旧しつつあるが、なお多くの人が避難所生活を余儀なくされている。ホテルなどに2次避難を続けている人も少なくない。
壊れた建物が放置されているのは、自治体が所有者に代わって解体・撤去を行う「公費解体」が進んでいないためだ。これまで所有者から2万棟の申請があったが、解体が完了したのは、わずか900棟にとどまっている。
解体する家屋の現地調査や、所有者への連絡を行う自治体職員らの人手不足が大きな要因だ。解体前には所有者の立ち会いが必要になるが、その所有者も被災地外に避難していて、日程調整などに手間取るケースも目立つ。
奥能登は、都市部から遠い半島の先端にあり、現地には宿泊場所も少ないため、解体の作業員を集めるのにも苦労している。
熊本地震では、発生から半年の段階で、4000棟以上の解体が終わっていた。解体が進まなければ、街は再生できない。
政府は現地に支援の拠点を設けるという。自治体間の連絡調整や職員の応援派遣など、国が先頭に立って対策を講じるべきだ。
能登の被災地では、この半年間に故郷を離れ、別の場所で生活を再建する人も増えている。復興が遅れている現状に、不安を感じているからではないか。
被災者が希望を持って前に進むには、街の将来像を示すことが重要だ。漁業などの産業や、伝統工芸の輪島塗をどのように再生させるのか。自治体は、具体的な復興計画の策定を急いでほしい。
能登半島地震から半年。被災地では、長引く避難生活で体調を崩すなどして亡くなる災害関連死が増加傾向にある。
復旧作業も、支援する要員や事業者の不足から時間がかかっている。官民を挙げて息の長い支援に取り組んでゆきたい。
被災地では避難所などで暮らす人が今なお2000人を超す。避難の長期化で災害関連死はこれまでに52人が認定されている。地震の直接的な死者とあわせ、犠牲者は281人と熊本地震を上回った。改めて冥福を祈りたい。
奥能登では倒壊した家屋の多くがそのまま残されている。解体が必要とみられる家屋は2万棟余りあるが、これまでに着手したのは1割強、実際に解体を終えたのは数%にとどまっている。
解体は家屋の所有権を持つ全員の同意が必要で、当初はこの手続きに時間がかかった。手続きは簡素化したが、費用算定や解体、がれき処理を担う事業者が足りず、思うように進んでいない。
解体などを担う建築土木業界は全国的に人手不足にある。各地で水害が懸念される季節を迎えたこともあり、能登だけに集めるのは難しいのが実情だが、できる限り手を差し伸べてほしい。
能登の現状はアクセス手段が限られる半島が被災した場合の復旧の困難さを浮き彫りにした。南海トラフ地震などが起これば「明日は我が身」の地域は多い。それに備えるためにも官民を挙げて能登の支援に知恵を絞りたい。
石川県によると、家屋の倒壊や土砂災害、津波、火災などによる直接的な死者は229人にのぼる。避難生活中の発病や体調悪化などによる災害関連死は、認定済みの52人と認定が答申されている18人を合わせて70人となり、7月以降の審査でさらに増える可能性が高い。
被災直後に開設された体育館などの1次避難所に身を寄せる被災者が約千人いる。
「命の危険」を排除せよ
「狭くて暑い」
仮設住宅で暮らす高齢の女性がこぼした。
仮設住宅の狭さは、被災者が孤立する要因の一つとも考えられる。たとえば、部屋が少し広ければ1人暮らしの高齢者を家族や知人が訪ね、ときには寝泊まりもして、孤立を防げる可能性がある。
できるだけ早く、多くの被災者に1次避難所よりはましな住環境を提供するために、広い居住スペースを断念するのは、初期段階ではやむを得ない。しかし、避難の長期化が避けられない状況では、生活環境の一層の向上に取り組む必要がある。
被災地を歩いて、過去の災害の教訓が十分に生かされていないと感じたのは、仮設住宅だけではない。
能登半島地震で大規模な火災が発生し、約5万平方メートル、280棟が焼失した輪島市の「朝市通り」周辺地域では、6月から行政が費用を負担して建物や瓦(が)礫(れき)の解体、撤去を行う公費解体が行われている。焼け跡は被災直後の惨状をとどめている。
石川県は、能登の再生に向けて「創造的復興プラン」を策定したが、復興の前段階である復旧の足取りが重い。
公費解体の着手が遅い
発災から半年を前にした6月27日、馳浩知事は会見で「できることは何でもやります。すぐやります」と語った。だが、公費解体については2万865棟の申請に対し、着手しているのは2601棟である。
「業者が足りないならば隣県や全国団体にお願いして持ってきます」と述べたが、公費解体における業者不足は平成28年の熊本地震でも指摘された。復旧の遅れの大きな要因である。
公費解体の着手までに時間がかかるのは、所有者との調整が必要なためでもあり、県知事の決断と実行力で大幅に短縮できるものではない。
大規模災害が起こる度に、公費解体の遅れが復旧の足枷(あしかせ)になる現状を、政府が主導して打開する必要がある。
6月、被災地を視察した国連防災機関トップのカマル・キショー氏は「世界に発信すべき教訓は多い」と述べたが、まず、日本国民が能登の教訓を学び、共有し、連携して新たな災害に生かさなければならない。
東日本大震災、熊本地震の被災地は復興の途上にある。能登の被災地も復興には長い年月を要する。厳しい状況の中で、郷里の再生に向けて被災者は懸命に立ち上がろうとしている。長期的な支援が大事だ。国民の意思と力を被災者支援に結集することが、能登の教訓を次に生かす連携への一歩になる。
元日の能登半島地震で被害の大きかった石川県能登町宇出津(うしつ)に、7月から始まるカレンダーがあります。毎年7月第1週の週末にある「あばれ祭」が、この港町にとって一年の始まりだからです。地元の小学校では、祭りの翌日にはもう、「祭りまであと○○日」と黒板に書き出されると聞きました。地震の影響で危ぶまれましたが、5、6日の開催に向け、町は活気づいています。
約350年前の江戸時代、この地域で流行した疫病が京都から迎えた祭神によって鎮まったため、奉灯をかつぎ、地元の八坂神社へ詣でたのが始まりとされます。各町内から出る「キリコ」と呼ばれる高さ7メートルの奉灯40本が練り歩き、2基の神興(みこし)を川や火の中に投げ込むなど、担ぎ手があばれ回る奇祭でもあります。
「祭りの宝庫」襲った災害
闇の中でたかれる大たいまつの炎とキリコの光が乱舞する光景に、ドイツ文学者の故・池内紀さんは著書「祭りの季節」の中で「わが国に残されている祭礼のなかで、宇出津キリコはもっとも火と明かりの威力と美しさを見せつける祭り」と書き残しました。
祭りを取り仕切る宇出津祭礼委員長の新谷俊英さん(70)には迷いもあったといいます。それでも「前を向きたい」と開催に踏み切りました。「能登人(のとじん)にとってキリコ祭りは生活に根付いた文化、先祖から受け継いだ血のようなもの」と新谷さん。近づく祭りを前に「地震で亡くなった人、今も避難している人がいる。例年とは違う意味合いがある」と表情を引き締めました。
多くは縦長の長方形で、多彩な文字や絵が描かれ神輿を先導します。大きさや豪華さを競い、個性あるキリコはそれぞれの地域の誇りになっています。
しかし、地震の影響で多くの地域で、祭りの中止や縮小を余儀なくされているのも現実です。
能登を代表する景勝地の一つ、見附島のある珠洲市宝立地区も、8月の「宝立七夕キリコまつり」の中止を決めました。能登でも最大級の高さ14メートルある6基のキリコが、打ち上げ花火を合図に、たいまつのたかれた海に入る様が壮観な祭りです。地区は建物倒壊と津波で壊滅的な被害を受け、キリコも1基を残して倉庫ごと津波で流出しました。
発災から半年。災害関連死が増え、石川県内の死者数は300人に達しそうです。輪島、珠洲両市の1800世帯で断水が続き、2次避難を含め2千人以上が避難生活を強いられています。県の統計によると、被害の大きかった能登6市町では、1月から5月までの間に、人口が4千人近く減りました。多くは金沢市や県南部への転出とみられます。
増やしたい「関係人口」
宝立地区の見附島観光協会の宮口智美さん(38)は「市外に出る人の気持ちは分かる。中には『珠洲から逃げた』という後ろめたさを感じている人もいると聞く。でも、そうは思ってほしくないし、祭りがやれれば、自然な気持ちで帰ってこられるのではないかと思うと、悔しい」と話します。
祭りが地域コミュニティーの核になってきた能登では、仕事で故郷を離れることを「旅に出る」といい、残る人は「キリコ祭りには帰ってこいや」と声をかける土地柄です。仕事や進学で故郷を離れても、祭りや地域の行事でつながりを維持してきました。
「関係人口」という言葉があります。拠点を別に持ちながら地域づくりに深くかかわり、時にその地域をもう一つの拠点にする人を指します。県はこの増加を復興プランの主要施策に盛り込みました。復興の過程で被災地と結びつきを持つ人を増やせるかどうか。祭りもその契機になるはずです。
金沢大の井出明教授(観光学)は「祭りで地元に戻る人、新たに参加する人はまさに関係人口。限界集落と呼ばれる地域でも、定期的にやってくる人が多ければ『限界』と言えない」と指摘します。
能登のキリコ祭りで先陣を切る「あばれ祭」。新谷さんは「祭りをできない地域の人にも、『復活させるんだ』という希望を与えたい」と力を込めます。7月から始まるカレンダーが、能登復興へのカウントダウンにもなってほしいと願います。
▼その一軒の2階の部屋では、60歳近くに見える夫婦が、鳥の羽毛のようなもので木片を一心に拭いている。輪島塗の下地を作る「木地屋さん」だと旅館の人に教わる。<きけば、輪島には、この種のうす暗い二階で仕事をする木地屋とか、沈金師とか、蒔絵(まきえ)師や大工などが無数にあるということであった>
▼輪島塗の木の加工、塗りなど全ての作業を担う夫婦。各工程の分業が一般的な輪島では珍しい。道具も焼けたが、各地の元職人らが譲ってくれた。「先が見えない」と不安を口にしつつ仕事は「生きがい」と言う。憂えながらも前を向く姿が尊い
▼水上は黙々と仕事をする木地屋にひかれたらしく、こう書いている。<無心に働いている中老の夫婦の像はいつまでも頭にのこったのだ>。無心の作業が紡いできた伝統は途切れまい。
発生から半年 生活再建にスピード感を(2024年7月1日『新潟日報』-「社説」)
元日に甚大な被害をもたらした地震の被災地では、半年が過ぎてもなお深刻な状況が続いている。
避難生活で命を落とす人が増えた。倒壊した建物などが手つかずのまま残されている地域もある。住宅の再建やインフラ復旧の遅れが、目に付く。
能登半島地震は1日で発生から半年になった。死者は299人となり、うち52人は避難生活で体調を崩すなどして亡くなる災害関連死と正式に認定され、18人の認定も決まっている。
仮設住宅の建設が遅れ、損壊建物の解体も進まない。今も2288人の避難者がいる。壊れた自宅などで暮らす人もいる。
夏本番となれば熱中症リスクが高まる。避難生活が長引けば、関連死がさらに増える恐れがある。高齢者や障害者らの体調悪化が心配だ。
過去の災害では、時間の経過とともに経済的困窮などが重なり、うつ状態になる被災者も出た。メンタル面のケアにも力を注ぐ必要がある。
◆断水が続くエリアも
インフラ全般の復旧が遅い。背景には、物資搬入などで要となる道路の復旧が十分に進んでいないことがある。
半島の主要道、国道249号は大規模な土砂崩れなどで全線開通の見通しが立っていない。
仮設住宅の建設も思うようには進んでいない。
珠洲市では6月上旬時点で完成したのは必要戸数の半分強だ。石川県は8月中の希望者全員の入居を目指すとするが、間に合うのか気がかりだ。
建物の公費解体・撤去がはかどらず、壊れた家屋やがれきが地震直後とほぼ変わらぬ状態で残っている地域もある。
石川県は、公費解体が必要な総数を2万2千棟と想定し、来年10月までの完了を目指すとするが、現時点で完了しているのは4%にとどまっているという。被災した市町からは県の目標に懐疑的な声が出ている。
手続きに時間を要し、発注が遅れているほか、人手不足で作業員の態勢が整っていないことが大きい。家屋の罹災(りさい)証明の判定方法が分かりにくいといった指摘もある。
公費解体では自治体がいったん費用を立て替えるが、資金繰りが厳しく、国は概算払いで早く渡してほしいと言う首長もいる。被災地の実情を踏まえ、国は柔軟に対応するべきだ。
被災地の首長によると、あらゆる業種で廃業が増えたという。別の首長は、補助金があっても再建には自己資金が必要になるため、若い人でも再建するかどうか悩んでいるケースがあると打ち明ける。
海底隆起などの被害が出た輪島港は今夏中にも操業を再開できる見通しになったが、機能回復できていない漁港は複数ある。漁業や農業など各分野の産業振興に向けて知恵を絞り、支えていきたい。
観光は経済波及効果が高い産業で、早期再開に向けて後押しする施策が求められる。
店が開けば人が集まる。商店街の再建を応援していきたい。
被災者の声にしっかりと耳を傾け、現場の実態に沿った弾力的な運用をしてもらいたい。
◆液状化対策なお課題
元日の地震は本県にも大きな被害をもたらした。県内の住宅被害は25市町村で確認され、計2万1千棟を超える。
住宅だけでなく地盤も精査し、将来にわたり安心して暮らせるようにすることが肝要だ。
被災者に寄り添い、丁寧かつスピード感のある復旧復興に全力を挙げねばならない。
元日の能登半島地震から半年がたつ。
道路や上下水道などのインフラが徐々に復旧しつつある一方で、いまだ多くの建物が倒壊したまま撤去もされず、なお2300人近くが避難生活を続けている。
基幹の農業、漁業も回復は道半ばだ。奥能登地方では水田の4割で作付けを見送った。海底隆起などで使えなくなった漁港のいくつかは復旧が見通せない。
「置き去りにされている気がする」。そんな声とともに伝えられる、静けさに包まれた被災地の現状がもどかしい。
避難所や仮設住宅での生活が長引けば体調悪化のリスクは増す。輪島市の仮設住宅では1人暮らしの70代女性が亡くなっているのが見つかった。これからの季節は熱中症にも注意が要る。地震の直撃を生き抜いた命をこれ以上失わない支援を充実させたい。
震災半年を前にした6月27日、石川県は「創造的復興プラン」を発表した。災害に強い地域づくり、能登らしい生業やコミュニティーの再建といったテーマごとに大小数多くのプロジェクトを列挙。2032年度までを3期に分け、目標達成を目指す。
400人超の被災住民らとの意見交換も経てまとめられた基本姿勢が目を引く。
「能登らしさ」を皆で探りながら、外部の支え手とも手を携え、地域が考える復興像を最大限尊重するとしている。若者や現役世代の声を十分反映する、女性や外国人、障害者など多様な視点を取り入れるとの項目もある。これをかけ声倒れにしてはいけない。
こうした計画の実施では、ともすれば行政の都合や効率性、財政的な制約が優先されがちだ。
プランには「マイナンバーカードの活用促進」など政府肝いりの施策も散見される。
そこに暮らす人々にとって本当に必要なのか、将来を見越して納得できるか―。プラン推進には、地域目線での逐次の検討と住民参加が欠かせない。
災害復興と女性 男性と対等の参画、徹底を(2024年7月1日『信濃毎日新聞』-「社説」)
能登半島地震が起きてから、女性たちはどんな経験をしたのか。どのような復興の姿を望んでいるのだろう。
地震後に能登の女性たちが結成した市民団体「フラはなの会」などが実施した調査から、災害発生時はもちろん、災害への備えを進める過程で、男女共同参画を徹底することがいかに重要かが見えてくる。貴重な教訓に学びたい。
調査は、同会など4団体が協働して3~4月、被災し避難所で支援活動に従事した女性らにヒアリングした。これによると、避難所運営において女性や多様な人たちのニーズが十分に把握されていなかった。炊き出しなどは主に女性が長時間、無償で担っていた。家族や親族のケアのために職を失った女性もいた。
「民生委員として区長の会議に行くが、みな男。『(女性は)でしゃばるな』という雰囲気がある」「避難所で女性は高齢男性たちから『地域の嫁』として用事を言いつけられる。若い世代は耐えられない」といった声があった。
これらの課題は、ふだんの地域社会の姿と地続きだ。住民組織の長は男性が圧倒的多数で、女性が発言しにくい。家事や育児、介護など家庭のケア労働が女性に著しく偏り、それを「当たり前」とする意識がある―。調査の指摘は能登に限った話ではない。
同会などは緊急提言書を石川県に提出した。復興計画の策定や実施に関わる場は女性を男性と同数にし、計画の策定や施策の効果の確認は男女別データにすること、子育て・介護サービスの復興を優先課題とすることなど、10項目にわたる。復興の歩みを確かにするための大事な視点である。
長野県はさらに危機的だ。77市町村の平均は4・7%。岩手県と並び全国最低である。女性職員ゼロの市町村が8割を超える。
女性職員の少ない自治体では避難所運営マニュアルにも偏りが出る。性暴力やハラスメントを防ぐ対策、乳幼児や妊産婦らへの配慮、備蓄なども十分ではない。
意識的に女性職員を増やさなくては、いざという時に被災者の命と人権を守れない。各市町村は最優先課題として取り組むべきだ。
元日に発生した能登半島地震から半年になる。鉄道や道路などインフラの復旧は進むが、今なお約2500人が避難所に身を寄せる。ビニールハウスなどの自主避難所で暮らす人もいる。避難所生活はプライバシーの確保や環境・衛生面で限界がある。国や自治体は引き続き、被災者が安心して暮らせる住まいの提供を急がねばならない。
懸念するのは、避難生活などのストレスや体調悪化による「災害関連死」が増えていることだ。石川県によると、6月25日に開かれた3回目の審査会で計18人を認定するよう答申が出された。犠牲者の総数は直接死を含めて299人に上る見通しで、276人が亡くなった2016年の熊本地震を上回った。
梅雨が本格化し、暑さも厳しくなる中、熱中症の危険も高まる。関連死の申請と認定は今後も増える可能性がある。「防ぎ得た死」を繰り返さないよう、寄り添う支援を手厚く展開してほしい。
被災地では家屋解体の遅れが目立つ。石川県は25年10月までの公費解体の完了を目指すが、実現するかは見通せない。道路や上下水道の本格復旧の完了は28年度中という。土砂崩れで自宅での居住が禁じられる「長期避難世帯」も多く、他地域での再建を余儀なくされる人がいる。
先の見えない暮らしは長引きそうだ。国や自治体は被災者が希望を持てる復興への道筋を明確に示し、再生を後押ししてもらいたい。
石川県の復興計画では、地域の外から関わる「関係人口」の拡大や、集落単位で電気や水道を賄う自立・分散型インフラ整備、デジタル活用などを柱とし、32年度末までの9年計画で「創造的復興」を目指す。
過疎化や高齢化が深刻な能登で、どのように計画を具現化するのか。官と民、被災地と被災地外の垣根を越えて知恵を出し合い、協働する仕掛けが欠かせない。
被災市町も復興計画づくりを急いでいる。並行して、新たなまちの姿を集落や自治会で話し合い、住民の合意形成を図る必要がある。
29年前の阪神・淡路大震災では、発生2カ月で復興土地区画整理事業などが都市計画決定された。短期間の決定は被災者の猛反発を招いた。このため具体的なまちづくりは専門家の支援を受けつつ、住民主導で進められ、全国的に注目を集めた。
東日本大震災の復興事業でも行政主導で土地をかさ上げしたものの、完了まで長期間を要したことで、当初は帰還を望んだ住民が避難先から戻らない事例が多くみられた。
地盤隆起や土砂崩れ、液状化などで石川県内の道路、水道などのインフラは大打撃を受けた。全半壊した建物の解体・撤去は遅れ、手つかずのがれきが残る地域もある。国によると、迂回(うかい)路を確保するなどして半島内をどこにでも行ける道路網ができるのは8月末になるという。
驚くのはいまだに水道が使えない住宅が残っていることだ。最大約11万戸に上った断水について石川県は5月末に「ほぼ解消した」と発表したものの、自宅内の配管が損傷し、蛇口から水が出ない住宅はまだ多いとみられる。修理業者の不足も指摘される。
東日本大震災など数々の大規模災害の経験から、全国で防災・減災対策が進められてきたが、能登半島地震が突きつけたのは対策の不十分さである。道路の寸断で支援が届かず、断水の解消に数カ月も要する事態は多くの自治体が想定していない。
まずは避難所の環境改善だ。自治体は災害発生直後から、避難所に間仕切りや段ボールベッドを設置できるよう準備しておく。栄養バランスの取れた適温の食事提供や、トイレカーなどによる快適なトイレの設置も進める。
避難所に行かず、自宅や自家用車で過ごす人への支援強化も明記した。自治体は車中泊向けのスペースを確保し、避難所に行かない人に物資や情報を届ける支援拠点を設ける。応援に入る他県の職員らが宿泊できる場所もリスト化しておく。孤立した集落への物資輸送などに自治体が無人機(ドローン)を活用することも盛り込んだ。
計画の改定を受け、県や市町村はこれから対応を進めるが、いずれも自治体だけでは難しいことばかりだ。岡山県内には既に官民連携の常設組織「災害支援ネットワークおかやま」がある。連携を一層強め、備えを急ぎたい。
▼メイン道路から一歩入ると被災当時と変わらぬ壊れた家々。家の前まで水道が復旧しても庭の私有地部分の管が破損していて使えない。水が通っても下水管が壊れていればトイレに困る―
▼代替道路などが少ない半島という地形の不利さ、地震の揺れの大きさをはじめ、さまざまな要因で復旧が進まないらしい。官民の連携不足やボランティアの受け入れ態勢の不備も報告される
▼彼らは、能登の人々のたくましさも指摘する。インフラが途絶えて支援物資が届かなくても、海や山の恵みを生かして支え合う。便利さを追い求めて災害に脆弱(ぜいじゃく)になった都市部の暮らしに一石を投じているとも言えよう。
能登半島地震はきょう、発生から半年を迎える。石川県内の被災地では多くの家屋が倒壊したまま残され、生々しい爪痕をさらしている。
変わり果てた古里で不便な暮らしを続け、「能登は見捨てられた」と嘆く被災者がいることを、私たちはもっと知らなければならない。
本来ならほぼ復旧を終え、復興への取り組みを本格化させている時期だろう。「元日の光景と変わっていない」という住民たちの声を国や自治体は重く受け止め、生活再建を急ぐ必要がある。
敷地内の修繕は住民負担になるが、地元業者に依頼が殺到して数カ月待ちの状態という。熊本地震では発生3カ月で水道の復旧がほぼ完了しただけに、今回の遅れが際立つ。国や県には、県外の業者を招くための支援などをさらに強化してもらいたい。
生活再建を最優先すべき理由は、災害関連死の抑制に尽きる。既に遺族らの認定申請は200人を超え、52人が認められた。
夏場も水不足が続けば、熱中症や衛生面のリスクが高まる。熊本地震のケースを当てはめれば、今回の関連死は900人を超えるとの見方もある。一刻も早く不便な暮らしを改善し、心身の負担を和らげることが求められる。
行政が家屋の所有者に代わって行う「公費解体」もスピード感に乏しい。全半壊した2万棟以上の申請に対し、実施できたのは5%足らず。住民が復旧を実感できないのも無理はなかろう。
背景には交通アクセスの悪さや、建設業界の人手不足がある。所有者全員の同意や書類作りなど煩雑な作業もネックになっているそうだ。手続きをなるべく簡略化しつつ、人や重機を集中的に投入できるような態勢も整えたい。
もちろん、地域の過疎・高齢化が復旧に影を落とした側面は否めない。中国地方をはじめ、全国の自治体が将来直面するかもしれない事態だ。その意味でも国が果たすべき役割は大きい。
政府はきょう、被災地で支援活動する100人規模の省庁横断チームを発足させる。県や市町村と円滑に役割分担し、血の通った支援が求められよう。防災から災害対応、復興までを一元的に担う「防災省」創設への検討材料にもできるのではないか。
石川県は「創造的復興プラン」で、地域が考える未来を尊重する姿勢を示す。再生に取り組むのも、集団で移転するのも住民の選択である。
地域で意見をくみ上げるためにも、未来を語れる日常を早く取り戻さねばならない。国や県は肝に銘じるべきだ。
半年たつとは到底信じられないような光景が広がっていた。先週訪れた能登半島地震の被災地の感想を同僚に聞いた。震度7の揺れで倒れたビルや家の多くは放置されたまま。「発生時の様子と大差ない」。取材した現地の人たちも話していたそうだ
▲公費で解体しようにも、手続きに時間がかかり発注は遅れがち。人手不足も立ちふさがる。2万棟を上回る見込みの公費解体が終わるのは来年秋。そんなスピード感を欠く石川県の目標ですら、実現が危ぶまれている
▲壊れた家屋の片付けは復興の第一歩といわれる。それがこの調子だからか、なりわい再建も、もたついている。それどころか170を超す事業所が廃業に追い込まれた。能登は見捨てられたという被災者の嘆きは、国や県に届いているのか
▲激戦だった2年前の知事選を制したのは、中央政界との人脈を誇った人物。なぜ、太いパイプを生かして政府に支援の拡充を求めないのだろう。得意技を披露する機会はあっただろうに
最大震度6強を観測した2000年10月の鳥取県西部地震を筆頭に、数々の地震災害を経験してきた山陰両県民も、決して人ごとと思ってはならない。あすはわが身と思って復興の行方に注視し、参考にできる施策は積極的に取り入れたい。
元日に発生した能登半島地震から半年を迎えた。インフラ復旧は進んできたとはいえ、早期の復興のためには、全半壊した建物の公費解体を急がねばならない。石川県は約2万2500棟を想定し、2025年10月までの完了を目標としている。
加速させるには、相続に伴い家屋の所有状況が複雑なケースでは所有者全員の同意がなくても解体できるようにするなど、手続きの工夫が必要だ。解体を請け負う業者の不足が指摘されており、手当ても求められる。
被災地では、復興に向けた施設や災害公営住宅などの整備が続いている。故郷に戻るため、家を再建する人も多い。だが、建設業界は全国的に人手不足に悩まされている上に、被災地は人口減少もあって、もともとの建設業者が少ない。
県の策定した創造的復興プランに合わせ事業をスムーズに進めることが重要だ。政府は復興の加速を目的に省庁横断的な支援拠点を被災地に設置。復興のために必要な人数、役立つ人材を全国から集めることが、拠点の重要な仕事の一つになる。
能登からは人の流出が続いている。農業、漁業、観光などのなりわいが本格的に復活するまで何年もかかるだろう。仕事がなければ、外に出た若い世代はなかなか戻れない。移住者の呼び込みも難しい。
県はプランの中で、企業やNPO、大学などが集まる「連携復興センター」の整備や、農林水産業のボランティア受け入れを打ち出した。能登に興味を持つ人に何度も訪れて復興に関与してもらう。そんな人たちを増やす政策の展開が人口減少対策にもつながるはずだ。
先ごろ公表された政府の災害応急対応の点検リポートによると、半島のためアクセスルートが限られ、高齢化率は約44%と高かったことが被災地の特徴だった。南海トラフ巨大地震の被害想定地域をはじめ、同様の特徴がある所は全国に多い。能登地震を、超高齢社会での災害対応を抜本的に見直すきっかけにしなければならない。
リポートでは、災害時に活用可能なトレーラーハウス、トイレカー、キッチンカーなどについて平時から登録・データベース化し、ニーズに応じ迅速に提供する仕組みの検討を求めた。
日本海に面した地形や半島部の多さ、人口減少に高齢化率の高さなど、被災地が置かれた状況は山陰両県と共通する部分が多い。地震災害はいつ、どこで発生するか分からない。備えあれば憂いなし。両県でもすぐにできることから始めたい。
被災した住民の事業再開や生活再建の取り組みなど、明るい話題の報道も少しずつ増えてきた。一方で、復旧が遅々として進まない厳しい現実も突きつけられており、楽観視はできない。
能登半島地震は発生からきょうで半年となった。
避難生活を送る人もいまだ多く、学校などの1次避難所には1038人がとどまっている。被災者の心身の健康サポートや仮設住宅の建設の加速など、引き続き被災者支援に全力を挙げたい。
石川県内の建物の全半壊は約2万5千棟に上る。復旧・復興には全半壊家屋などの解体を速やかに進めることが欠かせない。
空き家や所有者が死亡した家屋が多く、所有者や相続人を捜して解体の同意を得るのに時間を要しているためだ。地元市町村が懸命に取り組んでいるが、県が目指す来年10月までの完了は容易ではない。
復旧の遅れは公共土木施設でも目立つ。住民の生活に欠かせない道路でも、全線開通の見通しがいまだ立っていないところがある。
県の試算では被災自治体が管理する道路や堤防、下水管のなどの公共土木施設の被害は5月末時点で約8300件。被害総額は7922億円に上る。
被害箇所が多い上、復旧工事には費用を算出するため被害状況を確認する「災害査定」が必要になる。しかし、自治体に技術職員が不足していることもあり、作業に時間がかかっているという。
これでは被災者の生活に影響しかねず、豪雨や台風の襲来で被害がさらに拡大する恐れもある。一定のルールに基づいた手続きは必要だろうが、可能なものは簡素化するなど迅速化が求められる。
公共施設や道路の復旧、仮設住宅の建設、公費解体も強化する方針だ。発生半年に合わせ、被災地に省庁横断の支援拠点「能登創造的復興タスクフォース」も発足する。今後150人規模の職員が常駐し、支援に当たるという。
復旧のスピードアップへ、今後も政府には予算や人員の確保など、切れ目のない対応を求める。
元日の能登半島地震からきょうで半年を迎えた。
被災地では余震や長引く避難生活による被災者の体調悪化が懸念される。命を守る取り組みを一層強めたい。
元日から続く一連の活動の余震で、今後も警戒が必要という。損壊した家に戻って生活している人もいる。被害拡大を防ぐ対策が急務だ。
学校の体育館や公民館などの1次避難所に身を寄せる被災者は、ピーク時の3万4千人超から大幅に減った。とはいえ、いまだに千人余りがプライバシーの確保もままならず、つらい集団生活を強いられている現実に胸が痛む。
過酷な避難生活や環境の変化によるストレスで、持病が悪化して亡くなる人がいる。こうした災害関連死は約70人に上る見通しだ。認定審査が進めば、さらに増えるのは間違いない。
元々、高齢化が進んでいた地域だ。心身への負荷が、一気に体調を悪くさせたのだろう。心疾患や脳梗塞などを発症した例が目立つという。
暑さが本格化する夏を前に熱中症や食中毒の危険も高まる。関連死は見守りやケアによって防ぐことができる。高齢者を中心に避難所や自宅に戻った人たち向けに、健康状態を把握する体制を強化しなければならない。
仮設住宅は必要とされている約6800戸のうち7割が完成し、残りも8月中の完成を目指すという。
部屋にこもりがちになると心身の不調が進みかねない。周囲が日常的に声をかけ、不安や孤立感を和らげる取り組みが必要だ。自治体や住民が協力し、自由に交流できる場をつくっていきたい。
交通網が寸断されたままの地域や、倒壊した家屋が手つかずの場所も多い。過去の震災に比べ復旧の遅れは明らかだ。高齢化や過疎化による人手不足が影響している。
それでも能登6市町全体で7割の事業者が営業を再開した。復興に向けた確かな歩みを刻んでいる。
地震や豪雨などの災害を数多く経験してきた九州からも途切れぬ支援を届けたい。
元日の能登半島地震の発生からきょうで半年。避難所生活などで体調を崩し、災害関連死と認定される人が増え続けている。
半島という特有の地域で道路が寸断され、被災者への食料や物資の供給が妨げられた。水道管の耐震化が進んでいなかったこともあり、その後の断水が長期に及んだ。避難者の生活環境は悪化し、過疎化の進んだ市や町が避難所を設置・運営する困難さが改めて浮き彫りになった。災害発生時だけでなく、被災後に住民の命を守る手だては十分進んだのか。明らかになった課題への対応を急がなければならない。
避難所運営の限界
現在までの石川県内の犠牲者は299人。建物倒壊などによる直接死229人に対し、災害関連死は70人となった。
能登地震の関連死の認定申請は200人を超えており、審査が進めばさらに認定が増えるとみられる。死亡原因は避難生活での基礎疾患の悪化だけでなく、小学校や公民館といった避難先で新型コロナウイルスやインフルエンザなどに感染したケースが少なくない。
避難所設置は自治体の義務だが、被災各市町の備蓄物資では多数の避難者に対応できなかった。避難所では当初から食料や簡易ベッドが不足し、断水のために衛生状態が悪化した。
被災自治体、とりわけ職員数の少ない小規模な市町村に避難所運営を委ねるのは限界がある。必要な人員の確保を含め、国が全面的に支援し、避難生活の質を高める仕組みを整えるべきだ。各地で大規模な自然災害が多発している現状を踏まえれば、専従の「防災省」といった組織の創設も考える時期ではないか。
被災地では上下水道の復旧が遅れ、小学校などの1次避難所からホテルや旅館といった2次避難所へ住民を移す必要性もクローズアップされたが、スムーズにできなかった。被災者をより安全に、広域で避難させるための計画や自治体間の調整を、あらかじめ準備しておく必要がある。
石川県の避難者は最大3万4千人に上ったが、現在は1次避難所に約千人、2次避難所に約1200人で、ほかにビニールハウスなどで生活する自主避難者もいる。本格的な夏を迎え、今後も熱中症や食中毒への注意が求められる。
県は6月末までに、必要な仮設住宅の約7割にあたる5千戸を完成させた。8月中に希望者全員の入居を目指すという。輪島市の仮設では70代の女性が孤独死しているのが見つかった。そうした事態を防ぐためにも、コミュニティーの維持が重要になる。
生活再建の出発点
元の住まいで生活再建を目指す人にとっては、損壊建物の解体が再生の出発点となるはずだ。石川県は約2万2千棟の公費解体を想定し、来年10月までの完了を目指している。だが、被災自治体の首長らは実現を困難視している。相続者全員の同意取得など解体手続きに時間がかかり、解体業者も不足しているためだ。手続きの緩和や業者確保が急務だ。
断水は「ほぼ解消した」とされるが、まだ復旧していない所がある。半島の主要道路の国道249号の不通も続いている。海岸の隆起や津波で使えなくなった漁港も多い。政府は引き続き復旧・復興の予算を確保し、被災地を支えていかなければならない。