能登地震3カ月に関する社説・コラム(2024年4月2日)

能登地震3カ月 復旧の遅れが目に余る(2024年4月2日『北海道新聞』-「社説」)

 

 能登半島地震の発生から3カ月がたった。しかし被災地は過酷な状況に置かれたままだ。
 石川県の避難者は発生直後の約3万4千人から減ったとはいえ、まだ8千人超に上る。
 珠洲市のほぼ全域をはじめ、広い範囲で断水が続いている。
 避難所ではトイレや入浴の回数を抑える人たちもいるという。「人間的な生活を送れる状況ではない」との悲痛な声も聞かれる。災害関連死が増えないか心配だ。
 復旧の遅れが目に余る。
 住民が一日も早く生活を再建できるよう、上下水道や道路などの生活インフラの復旧を何より急ぐべきだ。国は被災地支援に総力を挙げなければならない。
 過去の震災と比べても遅れは顕著だ。2016年4月の熊本地震では、最大18万人を超えた避難者が3カ月後には5千人を切り、断水はほぼ解消していた。
 海に長く突き出た能登半島は山が多く、もともと交通アクセスは脆弱(ぜいじゃく)だった。そのため道路の寸断が復旧を難しくした。
 老朽化していた上下水道管のダメージも大きかった。木造住宅の倒壊が多発したが、高齢化した過疎地には復旧をけん引するマンパワーも足りなかった。
 発生当初はそうした状況があったにせよ、今となっては遅れの理由にならない。
 国が主導して、復旧が進まない原因を分析し対応策を考え、果断に実行することが重要になる。
 人や重機、資材をさらに集中的に投じる必要があるのなら、ためらってはならない。
 倒れた家や廃材が生活道路をふさぎ、復旧を妨げている実態もある。石川県内で発生する災害ごみは年間ごみ排出量の7年分と推計される。海上運送も活用した広域処理が急がれる。
 被災自治体の業務は避難所運営や住宅被害調査など膨大だ。今後壊れた家屋の公費解体も本格化する。全国の自治体は引き続き職員を派遣し支えてもらいたい。
 石川県は発生3カ月を前に復興プランの骨子案を発表した。
 単なる復旧で終わらせず、能登の魅力を守り高める「創造的復興」を目指すという。
 住民が元通りの暮らしができる基盤を立て直さないと、その先の復興もあり得ない。
 同じく創造的復興を掲げた東日本大震災では、事業が長引く間に人口減少が進んだ例もあった。復興庁はそうした教訓や知見を被災地に積極的に提供するべきだ。

 

能登半島地震3カ月 生活インフラ再建急げ(2024年4月2日『秋田魁新報』-「社説」)

 石川県で最大震度7を記録した能登半島地震は、発生から3カ月が過ぎた。水道や住宅など生活インフラの再建は依然、遅れが目立つのが現状だ。国と自治体は一層連携して復旧・復興を進める必要がある。

 石川県によると、死者は244人(災害関連死15人を含む)で負傷者は千人超。住宅被害は全壊、半壊、一部破損などを合わせて7万5千棟を超す。最大で11万戸に及んだ断水被害は徐々に復旧が進んでいるものの、珠洲市のほぼ全域を含む5市町の計7千戸以上で断水が続いている。

 2016年の熊本地震では最大44万戸超が断水に見舞われたが、発生3カ月で2戸を除いて解消され、3カ月半で完全復旧となった。被害状況に違いがあるとしても、これほど遅れが出るものなのか。作業態勢を見直すなど、できる限り断水解消のペースアップを図るべきだ。

 現地では下水管内の被害を確認する調査が進められているが、亀裂や接合部のずれが多く、全面復旧するには、まだ多くの時間を要するとみられる。「3年以上かかる」との見方も出ているというから深刻だ。

 仮設住宅の確保も大きな課題だ。地元の1次避難所や地元から離れた2次避難所に身を寄せている人は合わせて7千人超。それに対し、これまでに完成した仮設住宅は、900戸弱にとどまっている。

 馳浩石川県知事は従来方針よりも多い5千戸を建設する見通しが立ったとして、8月末までの入居を目標に掲げた。2次避難をしている人たちとも円滑にコミュニケーションを図り、それぞれの希望をかなえてほしい。一人一人の思いに寄り添った親身な対応が求められる。

 交通インフラについては、被災した県の第三セクターのと鉄道」が、運休している区間の復旧工事が進んで今月6日に全線での運行を再開することになった。北陸自動車道につながる自動車専用道「能越自動車道」も、先月15日に一部区間の通行止めが解除された。

 だが国道249号は、能登半島の北部で路面の損壊やのり面崩落など被害が大きく、復旧には数年かかる見通しだ。道路は県管理だが難度の高い大規模工事が必要なため、国が復旧を代行しているという。

 住民の往来に加え、復興に向けた観光振興には交通インフラの早期復旧が欠かせない。被災地に多くの住民が戻って地域活性化が図られるよう、国は今後とも工事を代行するなどの支援に力を入れるべきだ。

 これまで被災地には全国から自治体職員が多数派遣され、避難所の運営や住宅の被害調査などの業務に当たってきた。今後も住宅解体や災害廃棄物処理などに伴い、さまざまな業務が発生する。地元自治体だけで賄うのは困難だ。引き続き全国の自治体の協力を得て復旧・復興に着実に取り組んでほしい。

 

能登半島地震3カ月 新たな復興モデル必要(2024年4月2日『山形新聞』-「社説」)


 能登半島地震から3カ月がたった。断水解消の遅れは目立つものの、支援者向けの宿泊施設が稼働した。これをてこに作業員やボランティアの受け入れを本格化させ、倒壊家屋の解体など復旧・復興を加速させたい。

 被災地ではまだ約4千人が避難所に残り、ホテルや旅館で暮らす2次避難者も約3千人いる。住まいを確保し、日常生活を取り戻すことに全力を挙げなければならない。

 復興の理念として石川県は「必ず能登へ戻す」「人口減少など課題を解決しつつ、能登ブランドをより一層高める『創造的復興』を目指す」を掲げる。実現には新しい復興モデルを国と一緒に打ち出す努力が必要だ。

 復興計画の作成では、東日本大震災からの復興に携わった自治体職員やNPO、企業の参加を求め経験を生かすべきだ。地域の未来を話し合う会合も集落ごとに開き、多くの人を巻き込みたい。

 復興政策のベースは「災害ケースマネジメント」である。地元に戻る意思や仕事、教育で直面する問題などを聞き、復興の状況も伝えながら生活再建を支援する。必要な人員は被災した自治体が国の助成も得て基金をつくれば確保できる。

 避難先での生活が長くなればなるほど、仕事や子どもの教育の関係で戻ることが難しくなる。早期の帰還のためには住宅や仕事の確保が大前提となる。

 被災地内では、約5千戸の仮設住宅を早く完成させ、空き家も被災者向けに活用することだ。災害公営住宅の建設も十分な数を確保したい。公営住宅には多くの高齢者が入居するだろう。後から他の施設に移らずに済むよう見守りやケアの付いた部屋、介護施設の併設など福祉の側面も取り入れる工夫が望まれる。

 共同通信の被災者アンケートでは、復旧のスピード感を問題視する声や「生活資金がない」との訴えが相次いだ。石川県のホームページによると、同県には243億円を超える義援金が集まっている。本県では山形新聞と山形放送、公益財団法人山新放送愛の事業団に4月1日現在、約1億5300万円余りが寄せられた。善意を生活再建に迅速につなげる工夫が求められる。

 国レベルでは、この地震から教訓を学び、次に備えなければならない。

 能登半島では道路の被災が深刻だった。半島部ではアクセス道路が限られ、災害による通行止めは救命や復旧の遅れにつながった。通行止めの期間を短くするため、集落ごとに復旧作業に使う重機を保管する備えも有効だろう。

 中山間地に居住地が点在している本県にも共通する課題だ。県によると、災害時の孤立危険集落は昨年5月時点で441カ所あり、約2万7600人が暮らしている。重機や非常用通信機器の充実、ヘリポート設定など対策が急がれる。

 土木学会は首都直下地震の被害額を約20年間で約1千兆円と推定、事前対策により被害を大幅に減らせると提言した。

 未曽有の災害はどこでも起きる。孤立対策としての食料や水の備蓄、生活用水の確保策の充実に加えて、都市部への集中といった脆弱(ぜいじゃく)な国土構造の抜本的な見直しに今すぐ着手すべきである。

 

<たれとなく起きな起きなと花の朝>。花見時分の江戸川柳であ…(2024年4月2日『東京新聞』-「筆洗」)

 <たれとなく起きな起きなと花の朝>。花見時分の江戸川柳である。お花見が待ちきれずに皆、朝早くから起きだしたのだろう。にぎやかな雰囲気と笑い声が伝わってくる

▼関東地方では6月下旬から7月上旬並みの陽気となった一昨日の日曜日。近所のサクラの名所で見かけた光景がなんとも不思議だった。たくさんのお花見客が集まっている。シートを敷いてお弁当を広げ、中には大きなテーブルを持ち出し、宴会に興じている方もいらっしゃる

▼ここまでは毎年の花見風景だが、いつもと違うのはサクラが咲いていないことである。開花の遅れた今年のサクラが恨めしくもなるが、どなたも思い思いに春を楽しんでいる。花はないのにである

▼はしゃいでいる子どもがいる。若い夫婦がいる。家族連れが並んでおむすびをほおばっている。こっちは飲み屋さんの常連の集まりだろうか

▼「花のない花見」のにぎわい。それをながめている、こちらも穏やかな気分になる。ひょっとして花見の魅力とは花でも団子でもなく、集まっている「人」なのかもしれない

▼1日で3カ月となった能登半島地震。被災地の花見はどうだろうと想像する。輪島、珠洲など被害の大きかった地域では転出者が増えていると聞く。難しい暮らしの中、別れがたき故郷から人が離れていく。見てくれる「人」を失ってしまったサクラもまた哀れである。

 

能登地震3ヵ月 暮らしの再建を急がねば(2024年4月2日『信濃毎日新聞』-「社説」)


 能登半島地震の発生から3カ月が過ぎた。

 復旧・復興の進み具合をみると、住まいや上下水道といった生活基盤の再建の遅れが目立つ。これまでの他の地震災害と比べてみても、その遅れは際立っている。

 石川県によると、避難者は3月29日時点で8109人。発生直後の最大時は3万4173人だった。その24%が依然として避難生活を余儀なくされている。

 同じ最大震度7を記録した2016年の熊本地震の場合、避難者は最大約18万人。それが3カ月後には、2・5%に当たる約4600人にまで減っていた。

 今回の被災地域は、細長い半島の先端に近い場所にある。初動対応では、道路が寸断されてアクセスに難航するなど、地理的な側面が大きな障害となった。

 半島特有の状況が復旧活動にも影響しているとの見方や、人手不足が背景にあるとの指摘もある。行政対応も十分かどうか。いずれにしろ、取り残されたように感じる住民は少なくないだろう。

 被災地は中山間地が多く、過疎と高齢化が進む。時が過ぎれば過ぎるほど、離れた人が戻ってくるのは難しくなる。地震を機に一気に衰退する恐れがある。

 住まいや水道のない状態がさらに長引くようでは、地域の復興への機運は損なわれる。国や石川県は課題を洗い出し、生活再建に向けた対応を急ぐ必要がある。

 今回の地震は全壊の住宅が多いのが特徴だ。そのため仮設住宅を求める人が多く、需要に建設が追いついていない状況がある。

 希望者全員の入居は8月にずれ込むという。力を入れて取り組むよう、県などに求めたい。

 住居とともに欠かせないのが上下水道だ。珠洲市などの7860戸で断水が続く。通水した地域でも、自宅に引き込む配管が修復できず悩んでいる家もある。

 下水道の被害は特に深刻だ。全面復旧には3年以上を要するとの見方まで出ている。

 作業員が宿泊拠点との遠距離移動を強いられ、1日の作業時間を短縮せざるを得ないケースがあるという。被災地の近くに拠点を新設する対応も必要ではないか。

 コスト面を考えれば、下水の復旧は今後、複雑な配管が不要な浄化槽への切り替えも選択肢になるだろう。地域でどう話し合いを進めるかも課題となる。

 能登半島地震の経験は中山間地の多い長野県にも共通する。支援策を練るとともに、県内の今後の備えにも生かしたい。