国債購入減額 日銀は政策の正常化を着実に(2024年6月15日『読売新聞』-「社説」)
日本銀行が異例の金融緩和策を改めて、正常化を進めていくことは大切だ。市場の動揺を招かないように、綿密に計画を練ってほしい。
日銀は現在、月6兆円程度を目安に国債を購入しているが、14日の金融政策決定会合では、この国債の買い入れ額を減らす方針を決めた。今後、1~2年程度にわたる具体的な減額計画は、次回7月の会合で策定することにした。
日銀の政策転換後、長期金利は5月に1・1%まで上昇し、約13年ぶりの水準となった。
今回の決定会合の直後には、1ドル=158円台まで円安が進んだが、相応の規模とする国債の減額計画が具体化すれば、過度な円安・ドル高に一定の歯止めをかける効果もあるのではないか。
他方、米連邦準備制度理事会(FRB)は、7会合連続で政策金利を5・25~5・50%という高水準に据え置き、年内の利下げ回数の見通しも3回から1回へと減らした。日米の金利差は依然大きく、円安圧力は強いままだ。
日本経済は物価高に賃上げが追い付かず、物価変動を反映した実質賃金は2年以上もマイナスだ。円安が輸入物価の上昇を招き、物価を押し上げれば、さらに消費が落ち込むリスクがある。
植田和男総裁は「最近の円安の動きは物価の上振れ要因だ」と指摘した。為替市場にも目配りした政策を心がけてもらいたい。
健全な金利形成や財政の信認という観点からも計画的な資産圧縮は望ましい。市場との対話を通じて長期的な展望を確立し、市場の安定につなげてほしい。
14日の金融政策決定会合では政策金利を据え置いた。長期国債の購入規模は7月末に開く次回会合までは現状維持とし、その先は「長期金利がより自由な形で形成されるよう」減らすことにした。次回会合で今後1〜2年程度の具体的な減額計画を決定する。
植田和男総裁は記者会見で、買い入れの減額が「相応の規模になる」と語った。決定まで時間をかける点には「丁寧に市場の意見も聞きつつ、7月に具体策を発表する」と述べ、市場との意思疎通を重ねたうえで本格的な国債購入の減額に着手する考えを示した。
日銀は3月まで11年続いた異次元緩和で国債を大量に買い続けた。保有する長期国債は590兆円規模に膨らみ、発行済み残高に占める割合は2013年当初の1割強から5割超に高まっており、主要国でも異常な状態にある。
今回の措置には円安対応の色彩もにじむ。4月の会見では植田氏が円安の影響を軽視している印象を与え、円売りに拍車がかかった。14日の会見では「最近の円安の動きは物価の上振れ要因であり、政策運営上、十分に注視している」と強調した。
政府と歩調を合わせて円安への警戒を示す意味は大きい。ただし円安阻止を目的に一気に資産圧縮を進めると長期金利が急伸し、市場や経済が混乱しかねない。重要なのは、保有国債の適正化に向けた長期的な視点での展望を練り、市場の不安を和らげる工夫だ。
植田氏は追加の利上げを巡っては「見通しにおおむね沿ったデータの出方になっているが、もう少し確認したい」と語り、景気や賃金・物価を見極める考えを示した。ここでも政策金利の最終的な到達点のイメージを広く伝える努力を続けてほしい。結果的に市場の安定への近道になるはずだ。
今春の利上げで異次元緩和からの転換を図った日銀が、平時の金融政策に向けた取り組みをさらに進める。
7月末の次回会合で今後1~2年程度の減額計画を定める。購入額を減らすと、金利が上昇する可能性がある。
物価高の懸念は依然残るものの、春闘で賃上げが広がり、経済活動も堅調だ。金融政策が長きにわたった危機対応から脱するのは当然の流れだ。
ただし「金利のある世界」が行き過ぎて景気を冷え込ませるようでは元も子もない。日銀は市場の混乱を招かぬように減額計画を練り上げ、丁寧に政策を運営しなければならない。
植田総裁は買い入れの減額について「相応の規模になる」と語った。7月会合では減額規模のほか、そのペースなども適切に具体化すべきだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)は12日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、年内に3回としていた利下げ予想を1回にした。米国の利下げが遠のけば円安傾向が長引く可能性もあろう。それが日本経済全体に及ぼす影響についても、日銀は十分に見極めなくてはならない。
日銀の金融政策 物価の番人に回帰せよ(2024年6月15日『東京新聞』-「社説」)
円安は日本の物価高騰に拍車をかけ、家計や中小企業に深刻な打撃を与えている。
日銀は3月にマイナス金利を解除して利上げ方向に踏み出した後も、国債の買い入れ規模を維持した。国債の大量買い入れで金利を低く抑え、企業社会に潤沢な資金を供給する目的だ。市場では緩和路線が続くとみなされ、円安に歯止めが掛からなかった。
日銀の植田和男総裁は4月26日の会見で「円安による基調的な物価への影響は無視できる範囲か」との質問に「はい」と返答。市場で円安容認と受け取られ、この直後、一時1ドル=160円台と34年ぶりの円安水準に突入した。
その後、政府・日銀は2022年秋以来の円買い介入をしたとみられる=グラフ。しかし、介入効果は乏しかった。さらに植田氏は5月7日に岸田文雄首相と面会し発言を軌道修正した。
円安の直接の要因は日米の金利差が開いていることだが、インフレ懸念が残る米国が本格的な利下げ路線に転じる可能性は低い。金利差の縮小には日銀が追加利上げを実施し、アベノミクスの「第1の矢」である大規模な金融緩和と決別することが不可欠だ。
利上げには、経営者心理を冷やして景気の足を引っ張る危険があり、住宅ローン金利の上昇にもつながりかねない。こうした懸念から、日銀が利上げに慎重にならざるを得ないことは理解する。
ただ円安で一部大企業が潤い、家計や中小企業が我慢を強いられる構造はもはや限界だ。「物価の番人」である日銀が、物価に影響する為替市場を軽視していいはずがなく、暮らしに寄り添った正常な金融政策への回帰を望みたい。