森林環境税の導入 保全に効果的な仕組みか(2024年6月15日『毎日新聞』-「社説」)

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貴重な森林をどう守るかが問われている=千葉県船橋市で5月、三沢耕平撮影
 貴重な森林を守る役割を果たせるだろうか。
 保全に活用する森林環境税が導入された。住民税に年1000円が上乗せされ、国税として徴収される。約600億円の税収は国が自治体に配分する。
 主な目的は、手入れが行き届いていない森林を、自治体が管理するための財源の確保である。
 所有者の高齢化や林業人口の減少などで放置されるケースが目立っている。土砂災害を引き起こす恐れもある。
 きちんと整備されれば、災害防止や水源の維持、温室効果ガスの吸収など多様な効果が見込める。
 問題は、税収が有効に使われない恐れがあることだ。
 国は2019年度から資金配分を先行して始めている。22年度までの総額は1500億円だが、うち500億円余は活用されず、自治体の基金にため込まれた。
 原因は配分の基準にある。森林面積や林業従事者だけではなく、人口も反映される。このため、森林が少ない横浜市などの大都市が年数億円を受け取っているが、使い道は限られる。
 一方、森林の多い地方には資金が十分に行き渡らないアンバランスな状態に陥っている。
 森林面積で全国有数の岩手県や長野県などは東京都を下回る。小さな町村では年数十万円にとどまる場合もある。
 そのため、森林全体の健全な生育に不可欠な間伐は思ったように進んでいない。
 林業の後継者難も解消していない。小規模な市町村では支援する専任職員が不在の自治体も多い。
 国は今年度から人口の比重を引き下げ、地方への配分を増やしたが、小幅にとどまった。更なる重点化が必要だ。森林の荒廃を食い止めれば、その恩恵は大都市も含めた幅広い国民に及ぶ。
 保全を目的とした税は、既に37府県が独自で創設し、住民税に年300~1200円を加算している。一部の住民からは「二重課税」との不満が出ている。
 東日本大震災の復興増税の一部が終了し、引き継いだのが森林環境税だ。こうした安易な手法が制度設計を甘くした面は否めない。
 国は効果を検証し、仕組みを不断に見直していくべきだ。