ベーブ・ルースにタイ・カッブ。いずれも米大リーグの歴史に偉…(2024年6月3日『東京新聞』-「筆洗」)

 ベーブ・ルースタイ・カッブ。いずれも米大リーグの歴史に偉大な名を残す強打者だが、2人の記録を抜き去る選手が突然、現れた。大谷翔平選手の話ではない
▼その選手、通算打率(3割7分2厘)でカッブを抜いて1位に。通算の長打率OPS出塁率長打率)でも1位だったルースを置き去りにした。シーズン最高打率(4割6分6厘!)もトップに
▼選手の名はジョシュ・ギブソン捕手。1911年生まれの選手が今年、記録を塗り替えたことになる。不思議な話に聞こえるだろう。こういうことである。最近、大リーグ機構はかつて存在した黒人リーグ「ニグロリーグ」の選手の記録を大リーグ記録として正式に加えた。この結果、一部の記録でこれまでの順位が大きく入れ替わることになった
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▼大リーグにはジャッキー・ロビンソン入団の47年まで黒人を事実上締め出した差別の歴史がある。記録の見直しはその反省と黒人リーグの実力をきちんと認める試みである
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▼通算900本塁打の伝説もあるギブソン捕手は35歳の若さで病死している。一説では大リーグ入りがかなわぬことに失望し、これも死期を早めたとされる
▼3年がかりで集めた黒人リーグの記録は完全ではないそうだ。大リーグ記録を塗り替えた強打の捕手は満足しているか、ひょっとして「もっと打っているのに」と苦笑いしているかもしれない。
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アメリカ合衆国において行われていたアフリカ系アメリカ人を中心とした野球のリーグ戦。アフリカ系アメリカ人によるプロ野球のリーグ戦を漠然と指す言葉だが、狭義ではリーグ運営が比較的順調に行われていた1920年から1948年の間に存在した7つの野球リーグのことを指す。(ウィキペディア