薬を「ぜいたく品だ」と言われ…「差別・偏見」は福祉や行政の現場でも LGBTQの8割が経験した「困難」(2024年7月5日『東京新聞』)

 
<7.7東京都知事選・現場から>
 「同性愛はおかしいから、隠した方がいい」。福祉現場で無理解や差別的な言動の被害に遭った性的少数者(LGBTQ)は少なくない。支援団体の調査では、障害や生活困窮の行政・福祉サービスで「困難」を経験した人が8割近くに上る。(奥野斐)

◆「カミングアウトするよう強要された」

 東京・渋谷のビルの一室にある就労移行支援事業所「ダイバーシティキャリアセンター」。LGBTQも利用しやすいとうたう精神疾患発達障害のある人が就労を目指す事業所で、2021年12月に開所した。
性的少数者から寄せられる声について話す石倉摩巳さん=東京都渋谷区で

性的少数者から寄せられる声について話す石倉摩巳さん=東京都渋谷区で

 センターには、福祉事業所や行政窓口で差別的な言動、利用拒否に遭った人からの問い合わせが多い。「事業所の利用者全員にセクシュアリティー(性のあり方)をカミングアウトするよう強要された」「(別の性別で生活しているのに)更衣室は戸籍の性別で利用してと言われた」などの声が寄せられる。
 運営する認定NPO法人「ReBit(リビット)」(東京)の福祉事業部マネージャー石倉摩巳(まみ)さんは「社会の偏見などからLGBTQは正規雇用の割合が低い。困って相談した福祉サービスで、差別的な言動を受けて利用を閉ざされ、状況が悪化するケースがある」と説明する。必要なホルモン剤を「ぜいたく品」扱いにされ、やめなければ生活保護申請を受け付けない、と行政窓口で言われた人もいたという。
 リビットが23年1〜2月にLGBTQを対象にしたインターネット調査(有効回答961人)では、障害や生活困窮の行政・福祉サービスを利用した78.6%が支援者の無理解などで困難を感じたと回答。その影響で3人に1人(31.0%)が病状悪化、5人に1人(21.8%)が自殺を考えたり自殺未遂をしたりしたと答えた。

◆「安心して相談できる体制整備を」

 なぜ、福祉現場で知識や理解が広がっていないのか。リビット代表理事で、精神保健福祉士の薬師実芳さん(34)は「福祉の国家資格の養成課程や研修で、LGBTQについて学ぶ機会が十分でない。福祉サービス利用者に当事者がいる前提で、支援体制を築いてほしい」と話す。
 福祉現場でのLGBTQへのパワーハラスメントや虐待について、政府は6月25日に閣議決定した質問主意書への答弁書で、LGBTQへの侮蔑的な言動も「障害者虐待防止法などにおける虐待になりうる」との政府見解を示した。
 一方、都知事選では、LGBTQの課題を主要施策に掲げる候補は少ない。薬師さんは、事業者や職員への理解が重要だとして「都の地域福祉支援計画などにLGBTQについて記載することや、福祉相談窓口で安心して相談できる体制整備を」と求める。