東京都が「多様性」を看板に掲げて8年 人権条例、パートナーシップ制度…進歩の一方でなお残る課題(2024年7月5日『東京新聞』)

 
<東京 むかし、いま、みらい 都知事選2024>
 東京都政の方針や、目指す姿をまとめた総合計画に「多様性」という言葉が掲げられたのは、2016年12月だ。三つの「シティ」の一つとして、ダイバーシティ(多様性)が登場。現計画「未来の東京」戦略でも、「互いの個性や多様性を尊重し、その力を最大限発揮できる真の共生社会」などとうたう。

◆五輪開催で迫られた「人権擁護」

 1980年代に性的少数者らへの権利擁護の機運が高まった欧米と比べ、国内論議は遅れていた。東京が乗り出した背景の一つに、2020東京五輪パラリンピックの開催都市として、人権擁護の姿勢を発信する必要があった。14年のソチ冬季五輪の際、開催国ロシアで同性愛宣伝禁止法が成立したことに欧米各国の首脳が反発して開会式を欠席。これを受け、五輪憲章性的指向による差別禁止が加わったからだ。
 東京大会はビジョンに「多様性と調和」を掲げ、18年、都は都道府県で初めて、性自認性的指向による差別を禁じた人権尊重条例を制定。22年には、同性カップルらを認める「パートナーシップ宣誓制度」を導入した。

◆パートナーシップ制度を1265組が利用

 都によると、今年6月末までに延べ1265組が制度を利用。開始に合わせ、都職員の休暇や福利厚生の対象を同性パートナーにも広げ、男女の事実婚と同様に扱うように改めた。
 ただ、性的少数者の支援団体からは周知や実効性がいまだ不十分との声も。都条例は差別を禁じるが、当事者団体「LGBT法連合会」によると、特に生まれた時の性別と異なる性で生きるトランスジェンダーの人たちへの誤解や誹謗(ひぼう)中傷、就職時の差別などは後を絶たない。同会の神谷悠一事務局長は「差別禁止という都条例の趣旨を、民間企業を含め、都内の隅々まで浸透させる必要がある」と指摘した。(奥野斐)