都知事選「何でもあり」に誰がした? 議論を軽視する政治家、昔のまんまの公選法…片山善博元総務相が分析(2024年7月5日『東京新聞』)

 
 7日に投開票が迫った東京都知事選は、過去最多の56人の候補者が乱立し、風俗店の広告や全裸に近い女性を載せた選挙ポスターを張り出す陣営が現れるなど問題が相次ぐ。殺害や爆破を予告する脅迫文が複数の候補者に送り付けられ、荒れた様相も呈している。「民主主義の根幹」である選挙の土台が揺らいでいる現状について、鳥取県知事や総務相を務めた大正大の片山善博・特任教授に聞いた。(関口克己、我那覇圭)
都知事選について話す大正大の片山善博特任教授=東京都北区の大正大学地域構想研究所で

都知事選について話す大正大の片山善博特任教授=東京都北区の大正大学地域構想研究所で

◆敬意が向けられなくなった政治…「冷笑」の対象に

―4月の衆院東京15区補欠選挙の選挙妨害事件に続き、都知事選でも混乱が目立つ。
 「手荒な手法による選挙妨害は、過去になかったわけではない。ただ、その様子を映像に撮ってSNS(交流サイト)に投稿したり、特定の政治団体が大量の候補者を立ててポスター掲示板の一角を占拠し、希望者に売ったりするような動きはなかった。政治を『冷笑』する風潮が広がり、リスペクト(敬意)もなくなってきた今の社会を象徴する出来事だ」
―そんな事態を招いた要因は。
 「中央政界と無縁ではない。民主政治は本来、異論や反論を含む多様な意見を、議論や説得によって合意に結び付けようとするもの。だが、安倍政権以降の10年余り、最初から多数決で結論を押し通すような政治手法がまかり通ってきた。最近の自民党派閥の裏金事件でも政治の劣化を感じる。『魚は頭から腐る』と言うが、政治指導者たちの乱れが、社会の乱れにつながっているのではないか」

◆紙ポスター1万4000ヵ所、テレビで政見放送は必要か

―処方箋はあるか。
 「個人の自由や個人主義を前提にした日本社会で、法律などで明確に禁じていないことは何をやってもいいという意識が有権者にも浸透している。みんなで社会を形成している以上は『一定のルールは守らなければいけない』という教育を改めて普及させるべきだ」
公選法は今のままでいいのか。
都知事選について話す大正大の片山善博特任教授

都知事選について話す大正大の片山善博特任教授

 「制定が古く、大正や昭和時代の発想にとらわれている。例えば、都内に1万4000カ所も紙のポスターを張る掲示板を設置する必要は薄れている。リアルな掲示板は投票所などに限定する一方で、どれだけ多くの立候補者が出てきても対応できるように電子掲示板に移行するなどの方法はある。政見放送も延々と垂れ流さず、選管のホームページにアーカイブ化しておいて見てもらえばいい」

◆投票を通じて変えるしか

―改革の動きは鈍い。
 「今のような状況を生み出した議員たちが襟を正すのは当然だとしても、民主政治の基礎を形作る作業はやはり選挙だ。現状に不満を抱いているのであれば、まずは都知事選をはじめとする身近な選挙への投票を通じて、政治を変えていくしかない」

 片山善博(かたやま・よしひろ) 1951年、岡山市生まれ。東大卒。自治省(現総務省)で大臣秘書官や固定資産税課長などを歴任。99年の鳥取県知事選で初当選し、連続2期務め、2010から11年に旧民主党政権で民間人閣僚として総務相に起用された。慶大や早大大学院の教授を経て22年から現職。著書に「知事の真贋(しんがん)」や「民主主義を立て直す」など。