初の飲酒ガイドライン リスク知り減らす工夫を(2024年5月24日『毎日新聞』-「社説」)

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ビアガーデンで乾杯をする人たち。暑くなる夏はビールなど酒類の消費量が増えがちだ=札幌市中央区で2023年7月21日午後5時45分、谷口拓未撮影
 「ほどほどの飲酒は体に良い」とは言えなくなってきたようだ。
 厚生労働省が、健康に配慮した飲酒に関するガイドラインを初めてまとめた。
 国の健康づくり計画「健康日本21」が2013年に示した目安では、1日当たりの純アルコール摂取量が男性40グラム以上、女性20グラム以上だと生活習慣病のリスクが高まるという。20グラムはビール500ミリリットル缶1本分に相当する。
 ガイドラインもこの数字を引用しているが、高血圧、胃がん脳卒中などは、わずかな摂取でも発症の恐れが強まると記した。アルコールによる健康影響には、年齢・性別・体質で個人差があるとも強調している。
 背景には、飲酒量が少ないほど病気のリスクが減ることを示す近年のさまざまな研究結果がある。世界保健機関(WHO)は昨年1月、「アルコールに安全な摂取量はない」と注意を呼び掛けた。
 一方で、飲酒にはリラックスしたり、コミュニケーションを円滑にしたりする効果がある。習慣をすぐに改めるのも難しいだろう。
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アルコール摂取量を減らすには、多くの商品が出ているノンアルコール飲料を常備しておくことも有効とされる=福岡県粕屋町で2021年6月16日、久野洋撮影
 そのため、専門家は「アルコール量を今より少し減らすことを心掛けた飲み方」を勧める。
 筑波大の研究では、味わいを酒に似せたノンアルコール飲料を常備しておくと、飲酒量を抑えられるという結果が出た。食事の時にアルコール度数の低い飲み物を選ぶのも有効という。
 カロリーなどと一緒にアルコール含有量を容器に表示した商品も増えてきた。メーカーは消費者が摂取量を把握しやすくなる取り組みを進めてほしい。
 量だけでなく、飲み方の注意も必要だ。不安や不眠解消のための飲酒は、眠りが浅くなったり生活リズムが乱れたりしやすい。飲んだ直後の運動や入浴は、心筋梗塞(こうそく)などを起こす恐れがある。他人への飲酒の強要はもっての外だ。
 飲酒習慣がやめられない人には、従来の「断酒」のほかに、飲酒欲求を抑える効果がある「減酒薬」による治療も保険適用されている。内科などに専門外来を設ける医療機関もある。
 健康の「常識」は、医学の進歩や時代とともに変わる。飲酒のリスクを認識して、少しでも減らしていく工夫を考えたい。