岸田首相の経済対策 政権延命狙い矛盾あらわ(2024年6月26日『毎日新聞』-「社説」)

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記者会見で電気・ガス代への補助金復活などを表明した岸田文雄首相=首相官邸で2024年6月21日、平田明浩撮影
 政権の延命を狙うあまり、人気取り策を強引に進めれば、矛盾が露呈するのは当然である。
 岸田文雄首相が、物価高を受けた経済対策をまとめると表明した。国民の負担軽減につながるメニューを並べたが、つじつまの合わない内容が目立つ。
 最も理解に苦しむのは、5月分で終えた電気・ガス代への補助金を8月分から3カ月間復活させることだ。唐突な方針転換である。
 経済産業省は、終了の理由を天然ガスや石炭の輸入価格が低下したためと説明していた。最近も値動きは落ち着いている。「酷暑を乗り切るための緊急支援」との首相の説明は説得力を欠く。
 ガソリン代への補助を年内いっぱい続けると決めたのも問題だ。
 2022年1月に一時的な措置として導入したものだが、延長を繰り返してきた。化石燃料への依存が続き、政府の脱炭素方針に逆行する。
 ともに高所得者にも恩恵が及ぶバラマキである。支援するとしても、打撃が大きい低所得者に絞るべきだ。
 自治体への交付金拡充も実効性に疑問符がつく。地域産業などの支援に幅広く活用するというが、便乗して、物価高対策とは無縁の事業に使われかねない。
 首相が生活支援策の目玉としてアピールしてきた定額減税は、今月始まったばかりだ。にもかかわらず、新たな対策を打ち出すのは、自らの政策の効果を否定することになるのではないか。
 深刻な借金財政を巡る対応も矛盾しているようにしか見えない。
 首相は健全化目標を25年度に実現する考えを「骨太の方針」に盛り込んだ。だが今回の対策では、予備費の活用に加え、補正予算の編成も検討されている。規模が膨らめば、目標達成は難しくなる。
 首相は自民党派閥の裏金問題で改革の明確な方向性を示さず、支持率の低迷が続く。党内からは交代を求める声が相次いでいる。
 9月の自民総裁選に出馬の意欲をにじませる首相が、求心力を保つ手段として経済対策を持ち出したとみられても仕方がない。
 政治的な思惑を優先して大盤振る舞いに走れば、将来世代につけを回すことになる。それではあまりにも無責任だ。