健康リスク知り付き合おう(2024年3月31日『河北新報』-「社説」) 

国内初の飲酒ガイドライン案「男性40g、女性20g以上はリスク .

 

 「百薬の長」とも言われてきた酒を巡り、改めて健康リスクが注目されている。厚生労働省が先月、初の指針「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表。国民一人一人に対し、年齢や性別、体質などで異なる影響を踏まえ、自分に合った飲酒量を見極めるよう促した。

 国税庁によると、成人1人当たりの酒類消費量(2021年度は74・3リットル)は20年前の8割以下に減っている。一方、アルコール性肝疾患の死者は2倍近くに増えているとのデータもあり、飲酒を控える人と深酒をする人との二極化が指摘される。ガイドラインを参考に、アルコールの影響を理解し、酒との付き合い方を見直す機会にしたい。

 ガイドラインは酒量より純アルコール量に着目。最新の研究を基に疾患別に発症リスクを例示した。例えば大腸がんは1日当たり約20グラム以上で、高血圧は飲むだけでリスクが高まるとした。純アルコール量20グラムはビール中瓶1本や日本酒1合に相当する。

 生活習慣病のリスクを高める参考値として「男性1日40グラム以上、女性20グラム以上」を示し、政府の健康づくり運動プラン「健康日本21(第3次)」(24~35年度)がこの量を飲む人を減らす目標を掲げていることにも触れた。許容量を示したものでないとくぎを刺し、「できる限り少なく」との姿勢を明確にした。

 酒類メーカーも市場動向をにらんで動く。アサヒビールサッポロビールは、ストロング系と呼ばれるアルコール度数の高い缶酎ハイの新商品を発売しないと決めた。度数9%の缶酎ハイは500ミリリットルでアルコール量36グラムとなる。商品への総アルコール量の表示も広がり、持続可能な飲酒文化づくりへ模索が続く。

 酒は私たちの暮らしや地域の産業と深く結び付き、特に東北は縁が深い。総務省の家計調査(20~22年平均)で酒類の1世帯当たり年間支出額を見ると、都道府県庁所在地と政令指定都市の上位10位に最多の青森以下5都市が入り、仙台も14位だった。

 大災害などでストレスが増せば飲酒量に影響することも知られている。宮城県では東日本大震災後、成人1人当たりの酒類消費量が全国平均を上回るようになり、アルコール関連の相談件数も高止まりしている。

 アルコール健康障害対策基本法が14年6月に施行されて間もなく10年。20歳未満や妊婦のアルコール摂取といった不適切な飲酒については官民で対策が進みつつある。本人の健康はもちろん、DVや飲酒運転などを通じて家族や社会にも及ぶアルコールの害はもっと周知されていい。

 私たちの生活に豊かさと潤いを与えてくれる酒は、リスクも伴う。正しい知識を持ち、バランスを勘案しながら向き合っていく必要がある。ガイドラインはその一つの手掛かりになろう。