俳優の吉行和子さんが長年所属した「民藝」を1969年に退団したのはある芝居が原因という。もらった台本は手書き。読んでも筋が分からない。それでも不思議な世界が広がっていた
▼書いた劇作家も演出家も新しい演劇を提唱し、「民藝」を敵視する人物。吉行さんは出演のために退団を決意する。宇野重吉さんの説得に対し「それでもやめます」
▼街角で芝居を演じ、警察が来ると消える「路頭劇」。新宿・花園神社の紅(あか)テント公演。資金を稼ぐための金粉ショー。今では信じられぬ伝説の数々に新しさを常に求め、時代を動かそうとした情熱と危なっかしさを思う
▼「唐の演劇は『くやしさ』と『自由さ』に支えられている」。沢木耕太郎さんが書いていた。当時の若者の抱えた「くやしさ」と憧れた「自由さ」。唐さんの作品はそこに共鳴したのだろう。その芝居のすごみと魅力はあの時代の花園神社で当時の若者とともに見なければ分からないかもしれぬ