選ぶスキルを磨きたい 裏金事件と政権選択(2024年5月6日『東京新聞』-「社説」)

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 自民党派閥の裏金事件で政治への信頼は根底から崩れました。自民党は実態解明に後ろ向きで、裏金議員の処分は大甘。再発防止に向けた政治資金規正法改正論議でも、自民党の提案では、抜本改革は実現しそうにありません。
 明らかになったのは、政治を改めるのは私たち主権者にほかならないという当たり前の事実です。権利を行使するときは近づいています。だからこそ思います。選ぶスキル(技量)を磨きたいと。
 次の衆院選は来年10月の任期満了までに必ず行われますので、時期の予想に重きを置く必要はありません。ただ、時の首相が特定のタイミングを選んで衆院を解散する意図を理解することは、1票を投じる上で重要な要素です。
 立憲民主党が全勝した4月の衆院3補選=写真、東京都江東区で。自民党は不戦敗も含めて全敗したため、岸田文雄首相が6月の通常国会会期末に衆院を解散する可能性は低くなったとの見方が強まりました。現状では自民党議席を大きく減らす公算だからです。
自民党の常とう手段
 与党議員の多くは10~11月の衆院選を望んでいます。9月の自民党総裁選で新しい総裁(首相)を選び、ご祝儀相場で内閣支持率が高いうちなら政権維持が可能との計算です。選挙前に「顔」を代える自民党の常とう手段には、留意しなければいけません。
 そこで私たちの選ぶ技量を考えますが、まずは過去12年間の国政選挙で有権者のほぼ半数が棄権して「自民1強」を許してきたことへの自省が必要です。政権転落の恐れを感じなかったからこそ、自民党は緩み、驕(おご)り、安倍派では20年ほど前から続いてきた裏金の悪弊を断ち切れなかったのです。
 法律を守らない人物を80人以上も唯一の立法機関に送り込んだのは、有権者自身だという事実も忘れてはなりません。順法精神を欠く議員に立法を委ねたいとは思っていなかったとしても、結果としては誤った選択でした。
 もちろん、国会議員が違法な資金に手を染めていることを有権者が知らなかったことはやむを得ません。人の資質や品性を見抜くことは簡単ではないからです。
 では、どうすれば失敗を繰り返さずに済むのか。
 政策重視は有力な選択肢です。政党トップの個性や言動に注目するよりも公約を読み込む。候補者も同じ基準で選ぶ。これを突き詰めると、2000年代に一世を風靡(ふうび)したマニフェスト政権公約)選挙に行き着きます。
 政権公約は政策について(1)実現する期限(2)財源(3)数値目標(4)工程表-を示す考え方です。これを極端な形で活用したのが小泉純一郎首相。05年衆院選では郵政民営化という単一政策への賛否を問い、自民党が大勝しました。
 当時、岐阜県飛騨牛農家の女性に郵政民営化について尋ねたことがあります。女性は牛をなでながら「難しいことは分からない。みんなが言う人に入れる」と言葉少なに答えました。
 女性は衆院選の争点に関心はなさそうでしたが、有権者失格なのでしょうか。そんな思いを故・内田満早大名誉教授(政治学)に取材の際に打ち明けたら、内田さんは「政治家は顔で選べばいいんだよ」と言い切りました。
 内田さんの真意は、こう理解しています。個々の有権者が高度に細分化した政策の当否を総合的に判断するのは難しい。自分の代弁者として候補者を信頼できるかどうかに着目すればいい、と。
 ならば候補者の人格をどう見定めるか。街頭演説や集会に参加するにしても、それだけで人柄を判断できるのかは疑問です。やはり政策の方が客観的な判断材料になるのではないか。こうして選び方を巡る議論は循環します。
権利行使の反復こそ
 本紙の社説は、自分が重視する政策に絞って政党や候補者を選ぶ「じぶん争点」をお勧めしたことがあります。考え方が近い政党や候補者を探す「ボートマッチ」サイトも数多くあります。それぞれの選び方はどれも正解です。
 選挙後、候補者の当落に納得できないこともあるでしょう。結果として誤りだったと思うことを繰り返すかもしれません。その時はまた選び直せばいいのです。
 継続は力なり、です。1票だけで政治を変えることはできませんが、その1票を積み重ねれば、政治は変えられます。私たちが繰り返し権利を行使することで選ぶ技量が高まり、より良い社会に一歩ずつ近づけるのだと信じます。