アイドル活動中、過半数が「精神疾患を患った」 裸で体形確認、生理止まる…100人調査で見えたステージ裏の闇(2024年5月6日『東京新聞』)

 女性アイドルの労働環境について、引退したアイドルの就職を支援する企業「ツギステ」(東京都渋谷区)が、当事者にオンラインで聞いた100人調査の結果を発表した。ファンの視線にさらされる厳しい競争で心の不調を抱えがちなことや、ハラスメントを受けても相談しにくい実態が浮かんだ。専門家は、旧ジャニーズ事務所問題と重なる面もあるとして、安心して活動できる環境が必要と指摘する。(森田真奈子)
◆ジャニーズと同じ「芸能界ならよくある」で済まさないで
 調査は1~2月に実施し、現役44人、経験者58人の計102人が回答した。多くはメディア出演よりライブ活動が中心の「地下アイドル」で、有名グループでの活動経験者もいた。
 アイドルとして活動中に「精神疾患を患った」のは52%。厚生労働省の調査(2020年)では全人口に占める精神疾患の患者割合の推計が4.9%で、圧倒的に割合が高い。48%がパワハラ、12%がセクハラを受けたと答えた。
 
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実態調査の結果を基に、課題を話し合ったイベント=東京都渋谷区で
 
 インターネット上の書き込みなどを含め、外見を評価される機会が多く、78.4%がダイエットを経験。悩みとして「他人と比べて落ち込む」「生理不順・無月経」などを挙げた。
 このほか、引退後の展望や金銭面、休みが取れないなど、多様な不安を感じていたのに「誰にも相談できなかった」という回答が目立った。8割以上が男性スタッフの多い環境で活動し、ツギステは、生理などの悩みを相談しにくくなる一因で「問題を抱え込む」と推察。「華やかなステージとは裏腹に、ストレスを感じやすい。深刻で特殊な状況にある」と分析した。
 アイドル文化に詳しい慶応大非常勤講師の上岡磨奈さん(社会学)は、創業者の性加害が明らかになった旧ジャニーズ事務所問題を例に「芸能界だから別、よくあることとして放置されてきた」と指摘。「人間として尊重された上で、良いパフォーマンスができる環境が重要。アイドルも同じ人間で、ハラスメントはいけないという意識を広めることが大切」と強調した。
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◆声を上げると「ワガママ」「干される」…体質改善を
 ツギステは3月の国際女性デーに合わせて、女性アイドルの健康を考えるイベントを東京都内で開いた。代表の橋本ゆきさん(31)は10〜20代に、アイドルとして活動。現役時代は生理が2年間止まったり、服を脱いでダイエットの状況を確認されたりした。精神的に病む人が多く、アイドル業界のあり方に疑問を感じたという。
 
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「アイドルが健全に活動できる環境をつくりたい」と話す橋本ゆきさん
 
 悩みがあっても「相談したら干される」などと恐れる現状を変えるため「事務所側が相談機関を設けるなど、対策を取るべきだ」と提案。「健全に活動できる環境をつくることで、アイドルを安心して楽しめる文化にしたい」と語った。
 振付師として約15年間、アイドルと関わってきた竹中夏海さんは、回答で明らかになった被害について「氷山の一角。ハラスメントに遭い、後遺症に悩む人も多く見てきた」と話した。アイドルが意見を言うと「わがままと思われやすい」現状を紹介し、ファンの側も問題を知り「声を上げる人に耳を傾ける社会にしなければ」と呼びかけた。