自民3補選全敗 政権への怒り直視せよ(2024年4月30日『東京新聞』-「社説」)

 「政治とカネ」の問題が最大の争点となった衆院3選挙区の補欠選挙で、自民党は不戦敗も含めて全敗となった。派閥裏金事件の再発防止を巡る消極的な姿勢など、自民党政権の制度疲労に対する国民の怒りが示された形だ。
 岸田文雄首相ら政権幹部は、選挙結果を直視し、自らに政権を担当する資格や能力があるのか、自問すべきである。
 裏金事件発覚後初の国政選挙となった3補選で、自民党が公認候補を擁立したのは島根1区だけで唯一の与野党対決となった。
 同区は小選挙区制導入後9回の選挙で、自民党の故細田博之衆院議長が一度も負けたことがない保守地盤。しかも細田氏死去に伴う「弔い合戦」であり、首相が告示後2回選挙区入りした総力戦での敗北は逆風の強さを物語る。
 自民党は東京15区、長崎3区では候補者擁立すらできず、推薦もしなかった。当選が見込めなかったとしても、候補者を擁立して事件について説明し、有権者の判断を仰ぐことが、政権政党のあるべき姿ではなかったか。
 裏金事件を巡る自民党の対応は政治不信を増幅し続けた。徹底した党内調査を行わず、裏金づくりの経緯や使途など真相解明は進んでいない。裏金議員への甘い処分も常識とは懸け離れていた。何より党運営の最高責任者である総裁を務める首相の処分は見送られ、国民はあきれるばかりだ。
 政治改革を巡る本格的な議論が国会でようやく始まった。再発防止に向けた議員の罰則強化で、自民党案は各党案で最も消極的な内容だ。政策活動費の見直しにも踏み込んでおらず、政治不信の払拭に向けた決意が疑われている。
 自民党内からは2009年の衆院選のように「政権交代が起こってもおかしくない状況」(首相側近の木原誠二官房副長官)との声も漏れる。「政治とカネ」を巡る消極姿勢に加え、これまでの強引な政権運営を改めない限り、再び同じことが起きて当然だ。
 3勝した立憲民主党も喜んでばかりはいられまい。自民党の敵失に負うところが大きいからだ。
 世論調査によると、国民は政権交代与野党伯仲の政治状況を求めている。野党候補を一本化し、政権批判票を集めて勝利した島根1区のような「受け皿」を全国で構築する取り組みを、次の衆院選に向けて加速せねばなるまい。
 
カラスが鳴く。カフカ全集。学業の成績評価を優・良・可・不可…(2024年4月30日『東京新聞』-「筆洗」)
 
 カラスが鳴く。カフカ全集。学業の成績評価を優・良・可・不可で示した時代の学生言葉。どれもあまり自慢できる成績ではない
▼成績が「可」ばかりなのでカラスが「カー、カー、カー」。カフカ全集はさらにひどくて「可と不可」ばかり。有名な「加山雄三(可山優三)」は「優が三つに可が山ほど」の意となる
▼いずれも及第スレスレの「可」がある分、目も当てられない成績を残した自民党にはうらやましかろう。衆院3補選で不戦敗を含め全敗。「得意科目」だった保守王国・島根1区でも「不可」。「可」と鳴けず、うつむくカラスを自民党の党勢に重ねたくなる
▼「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」。野球の野村克也さんがよく使った『甲子夜話(かっしやわ)』にある言葉だが、この補選も「不思議の負けなし」だろう
▼派閥の裏金問題への強い憤り、上向かない生活への不満。有権者自民党から顔を背けるのも不思議はない。3補選全敗と書いたが、本当は「4敗」かもしれない。投票率はいずれも過去最低。裏金問題による政治不信が有権者の足を遠ざけた可能性が高く、これもやはり自民党の「負け」と数えたくなる
▼岸田首相は今国会で衆院解散・総選挙に踏み切るのではとの観測もあったが、島根でも敗れた強烈な逆風を思えば、厳しかろう。党内のカラスも恐ろしくて解散に「可」とは鳴きにくい。