衆院3補選が告示 「政治とカネ」が問われる(2024年4月17日『毎日新聞』-「社説」)
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件後、初の国政選挙である。「政治とカネ」の問題への与野党の姿勢が問われる。
衆院東京15区、島根1区、長崎3区の3補選が告示された。28日に投開票される。
自民は東京15区、長崎3区で公認候補を立てられなかった。裏金事件の逆風下、不戦敗が確定した異例の事態である。東京15区は選挙買収事件、長崎3区は裏金事件で有罪が確定した自民系前職の辞職によるものだ。
島根1区は、細田博之前衆院議長の死去に伴う選挙だ。細田氏は、組織的に裏金作りを続けていた安倍派の前身、細田派の会長を務めた。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係やセクハラ疑惑が取りざたされた。
長年、保守王国と呼ばれてきた地盤だが、今回は自民が議席を守ることができるか注目される。
3補選で焦点となるのは、政治資金問題への各党の取り組みだ。
裏金事件では、政治資金規正法違反で安倍派、二階派、岸田派の会計責任者や安倍派議員らが立件された。
安倍派幹部らは、国会の政治倫理審査会で関与を否定しており、裏金作りの実態は不明のままだ。党執行部は現職議員ら計39人の処分を決めたが、基準が恣意(しい)的だとして批判を招いている。自らが引き起こした問題にもかかわらず、自民は規正法改正の議論にも後ろ向きな姿勢が際立つ。
国会で自民を追及してきた野党は、裏金事件を補選の主要な争点にしようとしている。
野党共闘が奏功するかも注視される。共産党は3選挙区で候補を立てず、立憲民主党の支援に回る。野党の候補一本化の機運を高めることができるか、次期衆院選に向けての試金石となる。
補選の結果は、岸田文雄首相の政権運営にも影響を及ぼす。衆院議員の残り任期が約1年半となる中、衆院解散や秋の自民党総裁選に向けた戦略も左右しそうだ。
補選後には、国会で規正法の改正に向けた協議が本格化する。政治に対する国民の信頼を取り戻せるかどうかの正念場だ。
与野党は政治とカネの問題について、真正面から論戦を交わす必要がある。
衆院3補選 不戦敗が自民の劣化を物語る(2024年4月17日『読売新聞』-「社説」)
政権を担う政党が、選挙で有権者に選択肢を示せないのはあまりにふがいない。かといって野党への期待が高まっているとも言い難い。
今回の補欠選挙の構図は、日本の政治がいかに深刻な状況に陥っているかを物語っている。
衆院東京15区、島根1区、長崎3区の補選が告示された。自民党の派閥の政治資金規正法違反事件が表面化してから、初の国政選挙だ。来年10月の任期満了までに行われる次期衆院選の前哨戦にも位置付けられている。
選挙結果は、岸田首相の解散判断だけでなく、内閣の命運にも影響を与えそうだ。
自民は、元議員が政治とカネの問題で辞職した東京15区と長崎3区については劣勢とみていずれも不戦敗とし、細田博之前衆院議長の死去に伴う島根1区だけ新人を擁立した。島根1区は、立憲民主党の候補と一騎打ちとなった。
東京15区では、立民や日本維新の会のほか、小池百合子東京都知事に近い政治団体が擁立した候補らが乱立した。長崎3区は立民、維新の野党対決となった。
不戦敗は、国民に選んでもらうに値しない、と自ら認めたことになる。信頼を取り戻したいのであれば、不祥事を反省し、なすべき改革を断行したうえで、候補者を擁立して地道に支持を訴えていくのが筋だろう。
つい最近まで「1強」と呼ばれた自民が 躓つまず いた原因は、派閥の政治資金規正法違反事件だ。ただ、事件を踏まえ、真相解明や法改正に誠実に取り組んでいれば、ここまで党勢が衰退することはなかったのではないか。
一方、立民など野党も不満の受け皿になれていない。
野党は、原則非公開の政治倫理審査会へのテレビ入りにこだわった。安倍派の議員らを追及する場面を中継して自民を 貶おとし めようとしたようだが、独自の追及材料もないため解明が進まず、かえって国民の不満を高めてしまった。
少子化対策など社会保障に関しては、負担増に反対するばかりだ。大衆迎合的な主張は、国民に見透かされていよう。
読売新聞の全国世論調査では、「支持政党なし」と答えた人が2か月連続で5割を超えている。昨年10月に行われた衆院長崎4区、参院徳島・高知選挙区の両補選とも、投票率は過去最低だった。
無党派層の増大や低投票率は、政治が有権者に見放されつつあることを示している。その責任は与野党双方にある。
衆院島根1区補選告示 「政治とカネ」本気度を競え(2024年4月17日『中国新聞』-「社説」)
衆院の島根1区など3補欠選挙がきのう告示された。政治資金パーティーを悪用した自民党派閥の裏金事件が発覚後、初の国政選挙となる。
いずれも自民党が議席を有していたが、東京15区、長崎3区で不戦敗に追い込まれた。唯一候補者を擁立した島根1区で、立憲民主党との直接対決となった。両党は最重要選挙区と位置付ける。
最大の争点は裏金事件で増幅した政治不信を解消する取り組みである。岸田文雄首相が今国会中に衆院解散・総選挙に踏み切る可能性も指摘される。補選の先を見据え、与野党は政治改革の具体策と実行への本気度を競うべきだ。
島根1区補選は細田博之前衆院議長の死去に伴い実施される。元官僚の自民党新人と立憲民主党元職が立候補。公明党は自民の新人を推薦し、共産党は候補者擁立を見送り、立民の元職支援に回る。
細田氏は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側との接点を問題視され、組織的な裏金づくりが発覚した安倍派の前身派閥で会長を務めていた。
島根は竹下登元首相らを輩出した自民党の牙城。かつてない逆風にさらされた自民の新人は第一声で「政治改革を後押しできる立場になりたい」と力を込めた。
対する立民の元職は「ここで勝てば岸田政権に大打撃を与える」と訴えた。2007年参院選島根選挙区で自身が自民の前職を破り、政権交代へつながった再現を目指す。
告示前から両党は幹部を相次ぎ投入し、総力戦の様相を見せる。一方、買収など公選法違反事件による議員辞職を受けた東京15区、裏金事件での議員辞職に伴う長崎3区では野党がしのぎを削る。自民党の不戦敗は、選挙によって表される民意を隠すような対応ではないか。
有権者が論戦で聞きたいのは、「政治とカネ」問題を断つ具体的な手だてと、裏金事件の真相である。
直近の共同通信社の全国電話世論調査によると、裏金事件の実態が「十分解明されていない」との回答が93・3%に達した。国民は自民党の処分を含め、裏金事件にけじめがついていないと考えている。
後半国会の焦点である政治資金規正法の改正にどう取り組むのかが問われる。連座制の導入や政策活動費の廃止など他党の具体案は出ているのに、自民党は独自案の作成に後ろ向きだ。論戦を通じて国民に選択肢を示し、有権者の審判を仰ぐべきだろう。
自民党が島根1区を落とし全敗となれば、内閣支持率が低迷する首相の求心力がさらに失われるのは確実だ。9月の総裁選で再選を目指す政権運営や衆院解散戦略にも影響しよう。ただ自民、公明両党が多数を占める状況に変わりない。野党には改革実行に向け、まとまって与党と対峙(たいじ)する覚悟が求められる。
少子化対策や防衛力強化の是非など争点は他にもある。それらが政治への信頼を欠いたまま進められてはならない。どうすれば政治改革が進み、信頼回復につながるか。有権者には考え抜いて1票を投じてもらいたい。
衆院島根1区補選告示 地域再生の道筋示して(2024年4月17日『山陰中央新報・』-「論説」)
「全国的に注目を集めている選挙は静岡と島根だから」
先日、東京であった会合で地方紙の同業者らと懇談していると、通信社のベテラン記者から声をかけられた。
静岡は、新規採用職員に向けた訓示が「職業差別だ」と県民らの批判を浴び、辞職願を提出した川勝平太知事の後任選び。川勝氏が静岡工区の着工を認めず、JR東海が2027年開業を断念したリニア中央新幹線の行方に関心が寄せられている。
そして島根は、きのう告示された細田博之前衆院議長の死去に伴う衆院島根1区補欠選挙。自民党新人で元中国財務局長の錦織功政氏(55)、立憲民主党元職で党県連代表の亀井亜紀子氏(58)が立候補し、28日の投開票に向け激しい選挙戦に入った。
島根1区が注目を集める理由は、「政治とカネ」問題を受けて同じ日程で行われる東京15区と長崎3区を合わせた3補選で唯一の与野党一騎打ちとなり、結果次第で現政権の命運を左右しかねないからだ。
その重さを象徴するように選挙戦中盤の21日、自民党総裁の岸田文雄首相が島根入りする。党派閥の政治資金パーティー裏金事件で支持率がさらに低迷し苦境に立つ中、「逆効果だ」と難色を示す地元関係者の声を押し切った格好。相当な覚悟を持っての来県になる。
同じ21日には、立憲民主党の泉健太代表も島根1区に入る。立民は、3補選のうち島根1区を「天王山」と位置付け、党幹部が次々と島根入りしており、トップ同士の「直接対決」を前に注目度は高まるばかりだ。
とはいえ、地元有権者の反応は冷ややかに見える。もともと補選は本選挙に比べ関心が集まりにくく、投票率も低くなりがち。3補選の最大の争点は、裏金事件で増幅した政治不信解消の取り組みであるのは間違いないが、地元の有権者にとってはそれ以上に、地域を巡る課題の解決策の方が気になるだろう。
喫緊の課題が公共交通の維持になる。残業規制の強化によりドライバー不足の深刻化が懸念される「2024年問題」が本格化。既に県内では路線バスの廃止や休止が相次いでいる。
岡山、広島両県にまたがるJR芸備線の一部区間の存廃を話し合う「再構築協議会」が始まった。利用が低迷する地方鉄道の再編に向け、国が関与して鉄道事業者と地元自治体との協議を進める新制度の第1号だ。芸備線と接続する木次線(宍道-備後落合)も同様に利用が低調で、議論の行方が影響するのは必至。対岸の火事ではない。
エネルギー問題では、中国電力が8月の再稼働を目指す島根原発2号機(松江市鹿島町片句)の行方が注目される。元日の能登半島地震により、半島部での地震発生時の避難が改めて重要課題として浮き彫りになった。周辺住民の不安は募っている。
もちろん地方にとっての最重要課題である人口減少や社会保障制度など、取り組むべき難題は山積している。
立候補の届け出を終えた両候補は第一声で「政治とカネ」問題について言及した。最大の争点ではあるが、静岡県のリニア中央新幹線のように身近な問題でなければ有権者の関心は高まらないだろう。地域再生に道筋を付ける具体的な処方箋を、選挙戦でもっと示してほしい。
衆院補選の熱気は?(2024年4月17日『山陰中央新報』-「明窓」)
これまで経験したことのない熱気と一体感を味わった。14日に松江市総合体育館であったバスケットボールB1島根スサノオマジックの試合を観戦した。年間王者を決めるチャンピオンシップ(CS)出場へ向け、正念場の一戦だ。
ところが前半を終え、昨季王者の琉球ゴールデンキングスに12点のリードを許した。前日に続く敗戦が脳裏をよぎる中、島根は粘り強い守備で徐々に挽回。すると、4500人が駆け付けた観客席の応援の熱量は最高潮に達した。
メガホンを打ち鳴らして声援を送るのはいつも通りなのだが、ギアが一段上がったような特別な雰囲気を感じた。CS進出を願うファンの熱意の強さなのだろう。そんな後押しを受けた選手が燃えないはずがない。逆転勝利を飾ると会場は歓喜に包まれた。
さて、こちらの熱量はどうか。衆院島根1区補選がきのう告示された。岸田政権の命運を握る選挙区とされ、与野党とも正念場と位置付けるものの、肝心な有権者の反応はいまひとつに映る。「政治とカネ」問題への不信感が要因だろう。とはいえ、われわれ有権者が政治を諦めてしまっては地域課題が改善へ向かうはずがない。
投開票日の28日はB1島根のホーム最終戦が行われる。相手はCS進出争いを繰り広げる広島ドラゴンフライズ。ファンの熱量はさらに高まりそうだが、地域の未来のためにも、応援の前に選挙で「一票」を投じたい。(健)
東京15区エリアこそ日本の縮図 江東区の課題を見つめ直せ(2024年4月17日『日刊スポーツ』-「政界地獄耳」)
★東京で江東区といえば、隅田川と荒川にはさまれた下町のイメージが強い。亀戸天神、富岡八幡宮や深川不動を軸にした下町風情は関東大震災、東京大空襲などを経ても立ち直り、にぎわいを見せた。ところがこれを衆院の東京15区という選挙制度に基づく区割りにあてはめると、都内随一の可能性を秘めたエリアとなる。1990年代以降は沿岸部の埋め立て地の開発が進み、湾岸エリアの多くは江東区だ。昔は夢の島はごみの埋め立て地として扱われたが、今では都内と思えぬ広大な臨海森林公園として人気スポットだ。
★青海・有明地区は東京臨海副都心(お台場)として開発され発展が著しく、港区台場地区に隣接する有明地区の有明コロシアム、有明アリーナ、有明ガーデンシアターは若者のスポットとしても名高い。築地から移転した豊洲も活況を呈しておりホテルも多いだけでなくタワーマンションが林立し、人口も現在53万人に増えている。同選挙区は長年、元外相・柿澤弘治が地盤を守り、息子の未途が引き継いだが選挙違反で議員辞職し補選と相成った。
★東京の都市部に顕著だが、元々の江東区民と新たに流入してきた住民との生活、文化、価値観、世代など大きくエリアによって異なる社会が、ひとつの区を形成することになる。年配のコミュニティーがお祭りで街を盛り上げれば、子供の声が響く高層マンションがある。それをひとつのまとまりにする大切さや難しさは行政や政治に関わる人たちのテーマだ。16日告示された今回の補選には自民党を除く政党をはじめ、無所属候補まで元職と新人9人が立候補した。多くの第一声はいずれも現在の政治体制についての批判が多い。だが東京の問題点はないのか。それは都議や区議が議論すればいいのか。高齢化や少子化は国の大きな課題だが、江東区の抱える現実でもある。このエリアの住民こそが日本の縮図だ。乱立した候補者には15区の課題も見つめ直してもらいたい。(K)