ウクライナ支援に関する社説・コラム(2024年4月23日)

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連邦議会前でウクライナ支援の緊急予算案が下院で可決したことを祝うウクライナ支持者=20日、ワシントン(ゲッティ=共同)

 

ウクライナ支援 米国の再開を反攻の弾みに(2024年4月23日『読売新聞』-「社説」)

 

 与野党の対立で滞っていた米国のウクライナに対する軍事支援が、再開に向け大きく前進したロシアへの反攻につなげてもらいたい。

 米下院が、ウクライナへの武器供与を柱とした約9兆4000億円の追加予算案を賛成多数で可決した。予算案は上院の可決とバイデン大統領の署名を経て、近く成立する見通しだ。

 予算案は、バイデン政権が昨年、議会に提案した。だが下院で多数を占める野党・共和党が、ウクライナ支援より不法移民対策を優先すべきだとして反対し、採決できない状態が続いていた。

 最大の後ろ盾である米国からの支援が中断し、ウクライナ軍は武器や弾薬が枯渇していた。その結果、2月にロシア軍にウクライナ東部の防衛拠点アウディーイウカを奪われるなど、占領地拡大を許してしまった。

 米議会での対立を打開したのは、共和党のジョンソン下院議長だ。4月中旬、ウクライナ支援に反対していたトランプ前大統領に会い、予算案の原案を修正することで了解を得たという。

 修正案は、原案の6分の1(約1兆5000億円)の経済支援分を無償の資金協力ではなく、返済義務を伴う融資に変更する内容だ。負担の増大を嫌ったトランプ氏の意向を踏まえたもので、この修正案が下院を通過した。

 トランプ氏が譲歩したのは、11月の米大統領選をにらみ「ウクライナを見捨てた」との批判を浴びることを警戒したのだろう。

 国際社会の平和と安定のため、米国が果たしている役割は依然大きい。その指導力が弱まれば、大国が武力で勢力拡大を競い合うような時代に戻りかねない。米国には、自らが担っている責任の重さを自覚してもらいたい。

 ただ、米国だけにウクライナ支援を頼るわけにはいかない。欧州や日本も取り組みを強化し、ロシアの蛮行をなんとしても失敗に終わらせる必要がある。

 軍事支援に制約のある日本は、発電機の供与などで民生分野を支えてきたが、それだけで先進7か国(G7)の一角として責任を果たしていると言えるのか。少なくとも防衛力強化につながる装備の供与を検討してはどうか。

 ロシア軍が5月にも大規模な攻勢をかける、との見方が出ている。一方、ウクライナでは汚職容疑で軍の高官が更迭された。

 ゼレンスキー大統領は国内の体制を固め直すとともに、国際社会の支援を有効に活用すべきだ。

 

ウクライナ支援 米下院の議決を歓迎する(2024年4月23日『産経新聞』-「主張」)
 
 米下院が、ウクライナ支援のための約600億ドル(約9兆2400億円)の緊急予算案を可決した。
ロシアの侵略を受けるウクライナへの米国の支援が、ようやく再開される運びとなったことを歓迎する。
 米議会の審議が難航をきわめた間に、ウクライナの戦況は弾薬不足で大きく悪化した。速やかにウクライナへ軍需物資を送る必要がある。
 緊急予算案はウクライナに武器・弾薬を供与し、米軍の在庫を補充する内容が柱だ。与党・民主党が優位の上院でも近く通過し、バイデン大統領の署名を経て成立する。
 バイデン氏は下院の議決について、「歴史の要請」に応え、「世界での米国のリーダーシップ」を示すと評価した。ウクライナのゼレンスキー大統領は「戦争の拡大を防ぎ、何千人もの命を守る」と感謝した。
 バイデン氏が議会に緊急予算措置を求めたのは昨年10月である。しかし、下院で多数を占める野党・共和党の保守強硬派が、不法移民対策として自国の国境警備の優先などを唱え、混迷が続いた。
 ウクライナはこの間に劣勢となり、今年2月に東部アブデーフカから撤退した。露軍は東部で支配領域を拡大し、主要都市へのミサイル攻撃を激化させた。米中央情報局(CIA)はウクライナが年内に敗北する恐れがあると警告した。
 プーチン露大統領が侵略の果実を得ることは認められない。これを許せば、中国や北朝鮮、イランなど独裁・強権諸国を勢いづかせ、次の侵略や無法行為に道を開くことにもなる。
 米支援の停滞を見た欧州諸国は危機感を募らせウクライナ支援を強化した。ドイツは防空システムの追加供与を決め、他国にも呼びかけている。チェコは砲弾を世界で買い付けてウクライナに送る音頭をとる。北大西洋条約機構NATO)は 5年間で最大1千億ユーロ(約16兆4700億円)の支援策を協議し始めた。
 米下院の討論では共和、民主両党の複数の議員が、「米国の指導力は必要不可欠」との岸田文雄首相の米議会演説を引用して予算案を支持した。日本を含む同盟諸国は米国とともに安全保障に取り組む必要がある。その姿勢が今回の下院議決を後押ししたという教訓も重要だ。