アメリカ大統領選の共和党の候補指名争いは、トランプ前大統領(77)が「スーパーチューズデー」の15州のうち14州で勝利し、指名を確実にした。米国第一主義を掲げる同氏の陣営や支持団体は、すでに2期目を見据えた計画を練り始めているとされる。「もしトランプ氏が大統領に返り咲いたら」―。高まる再選シナリオが、早くも米国と国際社会を揺さぶっている。(ワシントン・浅井俊典)
◆「不法移民は侵略者」「全米で中絶禁止」公言
「この3年間、米国がひどい打撃を受けるのを見てきた。この国を取り戻すときだ」
トランプ氏は5日夜の勝利演説で、支持者らにこう訴えた。約18分の演説に込めたのは、国際協調や多様性を掲げて再選を目指すバイデン大統領(81)への批判と、米国第一主義への回帰だった。
米南部国境に殺到する不法移民の問題について「最悪の侵略だ」と発言。これまでの選挙戦で、欧州の同盟国軽視、全米規模での人工妊娠中絶の禁止といった波紋を広げる言動や2期目の計画が報じられても、共和党内の支持率は低下することなく、指名レースを独走してきた。
トランプ氏に近いギングリッチ元下院議長は米メディアに対し、2期目のトランプ政権が「より劇的に、米政府を根底から変えることになる」と伝えた。
◆まず、大統領権限拡大と政敵への報復
陰謀論者が多用する「闇の政府(ディープステート)」という用語を連発し「解体する」と繰り返し主張。政策実現の障壁とみなした連邦職員を大量に排除し、自身に忠実な職員と入れ替える。司法省への影響力を強め、バイデン氏とその家族、トランプ氏に批判的な政府高官への捜査を指示する考えを示している。
◆ウクライナ侵攻「24時間で終わらせる」
すべての輸入品に10%の関税を課すことも検討している。トランプ氏は2018年、鉄鋼の大量輸入は安全保障上の脅威として、日本などを対象に追加関税を発動。日本政府や企業も無関係ではいられない。
トランプ氏の陣営関係者は、同氏が大統領職を1期4年務めた経験から、こうした計画を「円滑に実行するだろう」と主張する。
◆大卒者や穏健派、無党派層は敬遠も
5日、米フロリダ州の私邸マールアラーゴで演説するトランプ前大統領=AP
ただ、過激な言動や2021年1月の米議会襲撃など4つの刑事事件で起訴されたことを大卒者や党穏健派、支持政党を持たない層が敬遠し、本選の行方に影響を及ぼす可能性がある。ニューヨーク・タイムズ紙によると、5日のノースカロライナ州予備選では、大卒者の多い地域のトランプ氏の得票率は60%で、少ない地域より20ポイント以上低かった。
バージニア大のラリー・サバト教授(政治学)は、これまでのトランプ氏の政策や言動が、党内から大卒者やホワイトカラーの多くを追い出したと指摘。「トランプ氏は非常に攻撃的で敵も多い。こうした性格が災いして、再選が阻まれることも考えられる」と話した。