バイデン氏の議会演説に関する社説・コラム(2024年3月9日)

一般教書演説を行うバイデン米大統領=ワシントンで2024年3月7日、ロイター

一般教書演説を行うバイデン米大統領=ワシントンで2024年3月7日、ロイター

 

バイデン氏の議会演説 米国の民主主義守れるか(2024年3月9日『毎日新聞』-「社説」)

 バイデン米大統領連邦議会で一般教書演説を行った。トランプ前大統領との一騎打ちが確実視される11月の大統領選に向け、1期目の実績をアピールし、対決姿勢を鮮明にした。

 コロナ禍で経済が落ち込む中、記録的な雇用を創出し、失業率は50年ぶりの低さになった。インフレも抑え込んだ。

 大規模な公共事業を全米で実施し、企業が半導体再生可能エネルギーに巨額資金を投じるのを後押しした。

 こう成果を強調し、トランプ氏退任時の「瀬戸際の経済」を立て直して「今や、世界が我々の経済をうらやんでいる」と豪語した。

 だが、世論は額面通りには受け取っていない。それだけの経済対策を打ってなお、政権の支持率は低迷を脱せないでいる。 

理由は明白だ。巨額の財政出動が物価高騰を招いた側面は否定できない。物価はひところより落ち着いたとはいえ就任時より高く、有権者の肌感覚はなお厳しい。

 経済の再生によって格差を縮小し、分断を修復に向かわせるという政権の戦略は思うように進んでいない。むしろ国民の不満は高まり、分断は広がっている。

 とりわけ失望感を広げているのが、「自由と民主主義が攻撃されている」と言いながら、有効な対策を打ち出せていないことだ。

 トランプ前政権の移民排斥からの転換を訴えて、就任直後に凍結した「国境の壁」建設を昨年、突然再開した。移民にとっては背信行為と映るだろう。

 非人道的な武力行使を続けるイスラエル寄りの中東政策には、若者層や非白人から批判の声が上がっている。予備選では抗議票が約2割に達する州もあった。

 トランプ氏は敗北した前回大統領選の結果を否定し、連邦議会議事堂襲撃事件などを巡る裁判を控える。政敵に報復すると宣言し、合法移民の排除など憲法に抵触しかねない政策も視野に入れる。

 民意を軽視し、独善的な振る舞いがまかり通るなら、憲法に立脚する市民本位の政治を掲げた建国の精神に反する。

 投票まで8カ月だ。81歳という高齢への不安もくすぶる。米国の民主主義を守り抜けるか。バイデン氏の実行力が問われている。

 

バイデン大統領の「米国第一」も心配だ(2024年3月9日『日本経済新聞』』-「社説」)

 

バイデン米大統領は一般教書演説で民主主義や自由を守ると訴えたが‥‥ =ロイター

 民主主義と自由を守るために米国は戦う。現職の大統領がこう力強く宣言したことには勇気づけられる。半面、自国を優先する内向きの論理が一部に根強い点に不安を覚えたのも事実である。

 バイデン米大統領連邦議会の一般教書演説に臨んだ。演説はこの先1年間、どんな政策に取り組むかを議会に伝えるのが目的だ。今回は11月の大統領選に向け、共和党候補の指名を確実にしたトランプ前大統領への対決色を鮮明にしたのが最大の特徴だった。

 「自由と民主主義が国内外で同時に攻撃を受けている」。バイデン氏はウクライナ侵攻を続けるロシアと、2020年大統領選の結果を否定するトランプ氏を同列に並べて批判した。

 バイデン氏がウクライナ支援を継続するための予算成立に共和党の協力を呼びかけたのは当然だ。米国が手を引けば、バイデン氏が言うように危険にさらされるのはウクライナだけにとどまらない。

 演説の場には、北大西洋条約機構NATO)に正式加盟したばかりのスウェーデン首相の姿もあった。防衛費の負担が不十分なNATO加盟国を守らない可能性に言及したトランプ氏と好対照を打ち出す演出といえる。欧州諸国も安心したに違いない。

 気がかりなのは、産業・通商政策での変わらぬ保護主義的な姿勢だ。自国の製品を優遇する「バイ・アメリカン」の政策が成功していると自賛したことが、それを象徴する。中国に対する貿易赤字が減ったと誇示したのもトランプ氏をほうふつとさせる。

 バイデン、トランプ両氏は世界の安定に米国が果たす役割や民主主義に関する見解は大きく異なるが、経済政策が自国優先の色彩をまとう点は共通する。バイデン氏が再選すれば、こうした政策が続くのは間違いない。

 バイデン氏が演説で日米同盟の強化に触れたのは歓迎したい。同時に通商国家として繁栄を享受してきた日本は、米国が背を向ける自由貿易を守る覚悟も試される。