企業価値の向上へCFOの責務は重い(2024年4月23日『日本経済新聞』-「社説」)

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ソニーグループは2代続けてCFO出身者が社長に就いた(記者会見で握手する新社長に内定当時の十時副社長㊨と吉田会長兼社長、2023年2月、東京都港区)
 
 企業で最高財務責任者CFO)が果たす役割が重くなっている。経理や財務だけでなく、会社全体の経営戦略の担い手として責務を負う。資本市場に向き合い、経営者とともに持続的に企業価値を高める姿勢が求められる。
 経理の専門家という印象は変わりつつある。最高経営責任者(CEO)が掲げるビジョンを踏まえ、戦略的に成長を目指す 事業の構築や資本政策、M&A(合併・買収)までCFOが関わる判断は経営そのものといっていい。
 米国企業の経営ではCFOをCEOや最高執行責任者(COO)と並べて「Cスイート」と呼び、主要な経営陣とみなす。CEOがCFOを直属の部下とみなすような縦型の構図とは異なる。
 日本でもCFO経験者が経営トップに就任する企業が相次いでいることは注目に値する。ニコンでは銀行出身でCFOだった徳成旨亮氏が4月から新社長に就いた。ソニーグループの社長も2代続けてCFO出身者がつとめる。
 元オムロンの日戸興史氏はCFOの経験を買われ、他社の社外取締役に就任した。CFOがプロとして請われ、企業をまたいで活躍する例がもっと出てきていい。
 間接金融主体の時代は、銀行対応が財務担当者の意識の中心だったかもしれないが、今は異なる。物言わぬ株主に守られた時代ではなく、CFOは資本市場にしっかりと向き合わねばならない。将来にわたり現金収入を増やし続ける経営こそ、 株主から長期に評価され、企業価値が上がる。
 東京証券取引所は「資本コストや株価を意識した経営」を促す。PBR(株価純資産倍率)向上には財務の尺度で分析し、成長と効率性を目指す姿勢が欠かせない。環境対応や人的資本など非財務分野も企業価値に関わってくる。
一連の取り組みを明確に伝える投資家向け広報(IR)は重要度を増す。市場の声に耳を傾け、経営判断に生かさねばならない。
 半面、効率ばかりに目を奪われ必要な設備や技術の将来投資、M&Aを渋れば、企業は力を落としてしまう。CFOこそ経営センスが要る。同時に経営者もCFO的な知見を備えていきたい。将来をにらんで社内でCFO候補を育てる仕組みづくりも重要になる。
 振り返ればホンダやパナソニックホールディングスには創業者を支える大番頭がいた。優れたCFOは企業の成長力のカギだ。