大阪万博まで1年 盛り上がらぬ理由直視を(2024年4月23日『毎日新聞』-「社説」)

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大阪市役所正面玄関前に設置された大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」のモニュメント=大阪市北区中之島1で2023年12月1日午前9時56分、藤河匠撮影
 
 大阪・関西万博の幕まであと1年となった。にもかかわらず、国民は開催の意義を実感できず、盛り上がりを欠いている。
 大阪府・市の調査によると、「万博に行きたい」という人はむしろ減っている。2022年度は全国で41・2%だったが、23年度には33・8%に低下した。
 日本国際博覧会協会は前売り入場券を1400万枚販売する目標を立てているが、4月19日時点で155万枚しか売れていない。
 「体験したい」と思わせる魅力が伝わっていないのではないか。
 前回の大阪万博が開かれた1970年当時、海外旅行は高根の花だった。紹介された最新の科学技術や外国の文化は人々の好奇心をかき立て、高度経済成長の先にある明るい未来を予感させた。
 半世紀たった今、事情は大きく異なる。気候変動など経済成長の負の側面が深刻化している。インターネットで世界中がつながる一方、人工知能(AI)や生命科学など、技術の進歩そのものに不安を覚える人も多い。
 人口が減少し、低成長が常態化する中、大型イベントを起爆剤に経済活性化を図る手法への懐疑的な見方が広がっている。
 今回の万博も旧来型の発想で誘致された。カジノを含む統合型リゾート(IR)開発との相乗効果を期待して、大阪を拠点とする日本維新の会が打ち出したものだ。
 開催ありきで進められた結果、理念が後付けになった感は否めない。「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマは抽象的で、メッセージが分かりにくい。
 費用もかさんでいる。会場建設費は当初の1250億円から最大2350億円と1・9倍に膨らんだ。運営費も1・4倍増の1160億円となった。
 建設費の3分の2は国と大阪府・市が税金で負担する。運営費の多くは入場料収入で賄われるが、赤字になれば誰かが穴埋めしなければならない。物価高が続く中、これ以上国民に負担を強いることは許されない。
 今、万博に求められるのは、先行きが不透明な時代における羅針盤としての役割だろう。開催するのであれば、固定観念にとらわれず、新たな価値観と出会える場にすべきではないか。