『日本書紀』によると、684年に今の四国が揺れた地震があっ…(2024年4月19日『東京新聞』-「筆洗」)

 『日本書紀』によると、684年に今の四国が揺れた地震があった。「国挙(こぞ)りて男女(おのこめのこ)叫び唱(よば)ひて、不知東西(まど)ひぬ。則(すなわ)ち山崩れ河涌(わ)く」。阿鼻(あび)叫喚の様相となり山は崩れ、川の水はわきだしたようだ
▼「伊予湯泉(いよのゆ)、没(うも)れて出(い)でず」。松山の道後温泉のことで温泉の湧出が止まったらしい。「土左国(とさのくに)の田菀五十余万頃(たはたけいそよろずしろあまり)、没れて海と為(な)る」。五十万頃(しろ)は約1200ヘクタールで土佐の国、今の高知県でそれだけの田畑が地盤沈下で海に沈んだ
▼死傷者多数とも伝え、被害状況から記録に残る最古の南海トラフ巨大地震とされる。後に白鳳大地震と名付けられた(伊藤和明『地震と噴火の日本史』
 
キャプチャ
 
▼一昨日の夜、愛媛県高知県震度6弱を観測した。負傷者が出て水道管の破裂や落石なども伝えられる。お見舞い申し上げる
▼白鳳大地震級の被害ではなさそうだが、おおむね100~150年間隔で起きるとされる南海トラフ巨大地震の想定震源域内で起きた。前回から約80年が経過。気象庁は「この地震によって直接、南海トラフ巨大地震発生の可能性が高まったとは言えない」と語っており、過度の心配は避けたいが、備えを吟味する機とはしたい
▼白鳳大地震に関し日本書紀は「古老(おいひと)の曰(い)はく、『是(かく)の如(ごと)く地動(ないふ)ること、未(いま)だ曽(むかし)より有らず』といふ」とも伝えている。当時は未曽有の災い。日本人はその後幾度も経験し、泣いた。無駄にすまい。