災害とデジタル技術 平時からの備えを万全に(2024年3月14日『毎日新聞』-「社説」)

読み取り機に「Suica」をかざす避難者=石川県志賀町富来領家町の富来活性化センターに設置された避難所で2024年2月7日、藤河匠撮影

 デジタル技術を使いこなし、災害時に国民の命を守る取り組みを強化しなければならない。

 能登半島地震の避難所運営にICカードを活用する試みを、政府が始めた。JR東日本Suica(スイカ)を被災者に発行して名前や連絡先を登録し、避難所の利用者数などを把握する。食事や支援物資の配布を効率化できる。

 マイナンバーカードが使えなかったための代替措置である。携行している避難者は全体の約4割に過ぎず、自治体や国には読み取り機の在庫もなかったという。

 マイナカードなら被災者の年齢や性別に応じた、よりきめ細かい支援が可能だ。罹災(りさい)証明書の交付など、生活支援に関わる行政手続きにも使える。保険証の機能があれば、投薬や診療の履歴も閲覧できる。読み取り機の備蓄など、必要な対策を講じるべきだ。

 とはいえ、発災時には避難が最優先となる。マイナ機能のスマートフォンへの搭載も進むが、着の身着のままで逃げる際に持ち運べるとは限らない。

 代替カードを速やかに発行するとともに、必要な行政サービスをオンラインで提供できるようにしたい。例えば医療分野では、災害時にはマイナカードがなくても、本人確認さえできれば投薬情報などを確認できる。こうした仕組みを最大限に生かせる環境整備が欠かせない。

 救援や防災でも、デジタル技術が果たす役割は大きい。

 今回の震災では、自衛隊などが持つ情報を国や自治体が共有するシステムが機能した。国の防災科学技術研究所などが開発した技術で、消防や警察、医療関係者らがリアルタイムで道路や避難所の情報を把握し、対策を打てる。

 南海トラフ巨大地震のように広域の被害が想定される災害で問われるのは、関係機関の連携だ。事前の調整や訓練を重ね、緊急時に備える必要がある。

 国が持つ建築物や道路などのデータを活用すれば、仮想空間で災害のシミュレーションを行える。こうした情報を住民に周知し、防災訓練に反映することも重要だ。

 災害大国の日本では、減災や被災者支援の技術やノウハウが蓄積されているはずだ。平時から準備を怠ってはならない。