円安の深刻化 春闘の成果が台無しだ(2024年4月19日『東京新聞』-「社説」)

 外国為替市場で円安に歯止めがかからず、家計は物価高騰により深刻な打撃を被っている。今春闘では大企業を中心に大幅な賃上げを実現したが、政府・日銀が円安をこのまま放置すれば、春闘の成果が消滅しかねない状況だ。
 円の対ドル相場下落が続く要因は、米連邦準備制度理事会FRB)の利下げ観測が後退したことだ。FRBは高金利による景気後退への懸念から利下げを模索してきたが、インフレが想定以上に続き、金融緩和に転じる時期を先送りせざるを得なかった。
 ドル建ての高金利が続けば、日米の金利差からドル買い円売りが加速するのは当然だ。問題は政府・日銀がこの事態に十分対応し切れていないことにある。
 鈴木俊一財務相は円安には「必要に応じて万全の対応をとる」などと市場の動きを繰り返しけん制しているが、口先のけん制だけでは市場の反応は薄く、円安基調を変えるには至っていない。
 日銀の植田和男総裁は10日、衆院財務金融委員会で「為替が動いたから金融政策の変更を考えようということではない」との立場を示し、17日に米ワシントンで開かれた日米韓財務相会合も「外国為替市場の動向に関して引き続き緊密に協議」などを確認するにとどまった。
 厚生労働省が公表した2月の毎月勤労統計調査では、実質賃金は23カ月連続でマイナスとなった。現金給与総額が増えても、物価高が給与上昇分を帳消しにする構図が常態化している。
 こうした状況で円安が加速すれば、大企業から中小企業に向かうはずだった賃上げの流れは、完全に断ち切られることになる。
 中小企業を束ねる日本商工会議所小林健会頭が17日の会見で、「円安は非常に困る。中東の紛争もあり油の価格も上がる。適切な措置をお願いしたい」と政府・日銀に求めたのも当然だ。
 政府・日銀は円買い介入に踏み切り、物価高騰を食い止める断固たる姿勢を打ち出すべきだ。今月下旬の日銀金融政策決定会合でも再利上げを念頭に、暮らしに寄り添う議論と決断を期待したい。