増える訪日客、よき理解者を増やしたい(2024年4月19日『産経新聞』-「産経抄」)

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多くの外国人の姿が見られる東京駅八重洲口のタクシー乗り場
 
 わが町の魅力を、外から来た人に教わることは珍しくない。「日本は汲(く)めども尽きぬ何かを持った、意外性の国」。明治17年に初来日した米地理学者のエリザ・シドモアは、江戸の遺風を残す庶民の暮らしにそんな所感を残した。
▼茶器、火鉢、盆栽。彼女には、それらが「舞台用の美術」に見えたらしい。維新前後に来日した外国人の手記を読み解き、彼らの目に映る日本を描いた近代史家の渡辺京二さんも言う。「私はひとつの異文化としての古き日本に、彼ら同様魅了された」(『逝きし世の面影』)。
▼政府発表によれば3月の訪日客は約308万人、コロナ禍前の令和元年7月を超え、単月ではこれまでで最多という。ようやく長い夜が明け、外からの目を通して日本の魅力を再発見…と書きたいところだが、聞こえてくるのは〝狂騒曲〟である。
▼1杯5千円のラーメンや1万円超の海鮮丼など、訪日客を当て込んだバブルの話題がもっぱら目につく。日本人が目をむくような価格も、折からの円安でお得に映るのだろう。観光名所は宿泊施設も交通機関もパンク気味、ごみも目立って増えた。
▼マナーだ、エチケットだと上から言うつもりはない。食べ散らかすだけが旅行の目的では味気なかろう。深まるのが理解でなく亀裂では、訪れる側も受け入れる側も幸せになれない。政府は表面的な数字に浮かれる前に、訪日客に理解と自省を促すことにも力を入れた方がよい。
▼来たときよりもきれいに。訪日客にはそんな日本の美風も母国に持ち帰ってほしい。余談ながら、いまの時節に米ワシントンのポトマック河畔を彩る桜並木が、先に触れたシドモアの提案で生まれたことは知られている。令和の日本もよき理解者を増やしたい。