トランプ氏公判 圧力に抗い毅然と裁け(2024年4月19日『東京新聞』-「社説」)

 11月の米大統領選に立候補している共和党のトランプ前大統領が不倫口止め疑惑に絡む事件で、ニューヨーク州地裁の公判に出廷した。市民から選ばれた陪審員が6月ごろには評決を出す見込み。
 超大国のかじ取りを再びしようとする人物が道を踏み外したのか否か、司法は圧力に抗(あらが)い、毅然(きぜん)と裁かなければならない。
 トランプ氏は当選した2016年の大統領選直前、醜聞の口止め料を不正に会計処理したとされ、20年の大統領選を巡っても、敗北を覆すため支持者に議会を襲撃させたとされる事件や、南部ジョージア州の州政府高官を脅したとされる事件でも訴追されている。
 さらに、核兵器に関するものを含む大量の国家機密文書を持ち出したスパイ行為も含めて、合わせて四つの刑事事件で罪に問われている。
 米国で初めて大統領経験者が刑事訴追された異例の事態に、トランプ氏は、すべて対立するバイデン大統領や民主党の「政治的な迫害」などと主張。寄付の呼びかけに支持者が呼応し、起訴や罪状認否などの動きがあるたびに数百万ドル(数億円)を集めた。
 トランプ氏の主張が受け入れられる背景には、司法に対する米国民の不信感がある。
 米調査によると、共和党支持者の7割近くが「バイデン氏は不正に当選した」というトランプ陣営の主張を信じている。根拠なしとして裁判で退けられた主張だ。
 米国では、検察官も裁判官もリベラル派と保守派に分かれるなど政治的中立は担保されておらず、両派の対立激化が米国民の分断を加速。米シカゴ大などが昨年公表した調査では、最高裁を「とても信頼している」との回答は18%にとどまり、1973年の調査開始以来、最低だった。
 その責任の一端は分断をあおったトランプ氏の政治手法にある。大統領時代に、最高裁判事に保守派ばかりを指名。判事9人のバランスが崩れた最高裁は、人工妊娠中絶の権利を認めた約50年前の憲法解釈を覆すなど保守派寄りの判断を続けている。
 トランプ氏の公判には大統領選を控えて内外の注目が集まる。司法が毅然とした姿勢で臨むのはもちろん、保守、リベラル双方が納得できる判断理由を示す努力を続けなければ、その権威や信頼が失墜することは避けられまい。