日銀3月短観 品質不正が押し下げた景況感(2024年4月2日『読売新聞』-「社説」)

 自動車メーカーの認証を巡る不正が、製造業の景況感に悪影響を及ぼした形だ。非製造業は、訪日外国人客数の増加で潤っている。企業の景況感は、まだら模様だ。

 各企業は景況感だけに左右されず、長い目で見た賃上げや投資で持続的成長を図ってほしい。

 日本銀行が、3月の企業短期経済観測調査(短観)を発表した。企業の景況感を示す業況判断指数は、代表的な指標である大企業・製造業で、前期より2ポイント低いプラス11となった。景況感が悪化するのは4四半期ぶりだ。

 業種別では「自動車」の下落が目立ち、15ポイント下がってプラス13となった。裾野の広い自動車は日本の基幹産業であり、急激な景況感の悪化は懸念材料だ。

 軽自動車のトップメーカーであるダイハツ工業で品質不正問題が起き、ダイハツの国内にあるすべての完成車工場で、一時、生産が止まったことが響いたという。

 他業種にも波及し、アルミ製品などを納入する「非鉄金属」が9ポイント、車体向けの鉄を作る「鉄鋼」は3ポイント、それぞれ下がった。さらに、部品メーカーなど中小企業の「自動車」は、32ポイント低下のマイナス8に沈み、打撃は大きい。

 ダイハツを含むトヨタ自動車グループは、再発防止の徹底と早期の信頼回復を図り、不正の影響を一時的なものにとどめる努力を尽くすことが大切だ。

 一方、今回の短観では、サービス業など内需関連が中心の大企業・非製造業の指数は、2ポイント上がってプラス34となった。8四半期連続で改善し、1991年8月以来の高さにまで上昇した。

 訪日客数の回復が追い風となっている。2月の訪日客数は、2月として過去最高の約280万人を記録した。訪日客による国内での消費も大きく伸びている。

 業種別では、「宿泊・飲食サービス」の指数がプラス52となり、記録的な高水準が続く。

 人件費のサービス価格への転嫁が進んだことも、景況感を押し上げた。それが賃上げにつながれば、消費を押し上げる好循環が期待できる。内需主導の景気回復への好機だと言えよう。

 ただ、中小企業を中心に、サービス業では人手不足が深刻になっている。業務の効率化や省力化のための投資は怠れない。

 また、日本銀行のマイナス金利政策解除で、企業向け貸出金利が上がれば、中小企業の資金繰りが厳しくなる可能性もある。金融機関の支援も重要になるだろう。