地価上昇に関する社説・コラム(2024年3月29日)

富裕層向けの住居が入る麻布台ヒルズ。都心ではマンション価格や賃料が急騰している=東京都港区で2024年2月10日、武市公孝撮影

富裕層向けの住居が入る麻布台ヒルズ。都心ではマンション価格や賃料が急騰している=東京都港区で2024年2月10日、毎日新聞武市公孝撮影

地価上昇と暮らし 住環境のひずみ正したい(2024年3月29日『毎日新聞』-「社説」)

 地価の上昇が続いている。コロナ禍後の景気の持ち直しを反映した動きだが、暮らしを圧迫していないか注視する必要がある。

 2024年1月1日時点の公示地価は、全体の平均が3年連続で上昇した。前年比伸び率は2・3%で、バブル崩壊後に下落に転じて以降では最大だ。都市部を中心とした人流の回復や、訪日外国人需要の復調が下支えしている。

 留意すべきは住宅価格の動向である。資材価格や人件費の高騰が建設費を押し上げ、東京23区では23年の新築マンションの平均価格が前年から約4割値上がりし、1億円を超えたとの調査もある。全国平均も6000万円に迫り、雇用者の平均年収の10倍を上回る。

 こうした状況は、国民に利益をもたらしているのだろうか。

 都心では、共働きで高年収の「パワーカップル」の需要や、海外からの投資マネーを当て込んだ高額物件が平均価格をつり上げている。中古マンションの価格や賃料も右肩上がりだ。

 このため、郊外に住宅を求める動きが広がっている。内閣府の分析によると、30代を中心とする子育て世帯では、東京からの流出が流入を上回る状況が続く。テレワークの普及も追い風になり、首都圏では千葉県のベッドタウンなどで地価の上昇圧力が強まった。

 住環境は子育てや就業に影響を及ぼす。通勤時間が長くなるに従い、既婚女性の就業率が低下する傾向が見られる。都心では住宅が狭くなりがちなため、2人目や3人目の出産をためらうケースがあるという。

 政府は、23年末に策定した「こども未来戦略」で住宅支援の強化を掲げた。割安な公営住宅を改修し、子育て世帯に優先して貸し出す施策などを盛り込んでいる。高齢者や低所得層を対象にした取り組みも強化すべきだ。

 ただ、バブル期を境に政府の住宅政策は民間主導に転じ、公営住宅の整備は停滞した。都心で開発が進む一方、空き家や老朽マンションの増加に悩む地域もあり、住環境のひずみが蓄積している。

 社会資本としての住宅を有効活用し、必要な世帯に適切な住まいを提供する機能を強化する時だ。生活の質を向上させる対策を、官民で進めなければならない。

 

公示地価上昇 実需伴う好循環の実現を(2024年3月29日『産経新聞』-「主張」)

 

多くの観光客でにぎわう東京・浅草

 新型コロナウイルス禍後に経済活動が活発化する中で、地価の上昇が全国的な広がりをみせている。

 国土交通省がまとめた1月1日時点の公示地価は、全用途の全国平均で前年から2・3%値上がりし、3年連続の上昇となった。

 伸び率が2%を超えるのは平成3年(11・3%)以来、33年ぶりという。三大都市圏、地方圏とも上昇が続いており、国交省は「新型コロナ前の水準に戻った」と分析している。

 安定的な地価上昇は資産効果などを通じて個人消費を促すほか、土地の有効活用を図る企業活動にも好影響を与えて景気を後押しする。東京など一部で投機的な動きも懸念されるが、今の地価上昇は概(おおむ)ね実需の裏打ちがあるとされる。これを経済の好循環につなげたい。

 地価上昇の要因の一つはマンション需要の高まりだ。地方主要4市(札幌、仙台、広島、福岡)の商業地の地価は前年と比較可能な全地点で上昇した。地方でも交通利便性の高いエリアは、住宅地だけではなく商業地においても、マンション用地としての活用が進んでいる。

 インバウンド(訪日外国人客)需要も地価を押し上げた。経済活動が本格的に再開されて人出が戻ったこともあり、人気観光地や繁華街を中心に地価上昇が全国に波及している。

 半導体工場の新設に伴う地価上昇も顕著だ。次世代半導体の量産を目指すラピダスが工場を建設している北海道千歳市や、半導体受託生産の世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が進出した熊本県菊陽町周辺は全国有数の上昇率となった。雇用の増加が見込まれ、事務所や住宅用地の需要が高まった。

 懸念されるのは、一部で指摘される不動産取引の過熱感である。昨年、東京23区で発売された新築マンションの平均価格は初めて1億円を超え、中古マンション価格も上昇している。再開発を見込んだ外国人が現金で買い、数カ月後にさらに高値で売り出すマネーゲームのような動きもみられるという。

 日銀は利上げ後も緩和的な金融環境を続けるとしている。思惑が先行した投機的な動きが広がり土地バブルの様相をみせれば、企業活動や暮らしに悪影響を及ぼしかねない。そうならないよう、今後の地価動向に注意を払う必要がある。