熊本地震8年/能登に教訓を生かしたい(2024年4月17日『神戸新聞』-「社説」)

 観測史上初めて震度7を2度観測した熊本地震の発生から8年がたった。熊本、大分両県で計276人が命を落とした。避難生活に伴う心労や体調悪化などが原因の災害関連死が8割を占め、その多くが70歳以上の高齢者だったことも大きな課題として残された。

 最大の被害を受けた熊本県益城町(ましきまち)では、町中心部で復興土地区画整理事業と県道の4車線化が進んでいる。「地元の魂」とされる阿蘇神社(阿蘇市)も国指定重要文化財・楼門の再建を果たした。県は今月、住宅再建や道路、鉄道などインフラの復旧に一定のめどが付いたとして復旧・復興本部会議を終了した。「創造的復興」を掲げ、陣頭指揮してきた蒲島郁夫知事は15日で退任した。

 ただ、全ての被災者が生活再建の道筋を描けているわけではない。8年間の歩みはそれぞれ異なり、格差がさらに広がることも懸念される。蒲島氏が目指した「誰ひとり取り残さない」復興は暮らしの再建なくして実現しない。木村敬新知事はその点を肝に銘じて取り組んでほしい。


 熊本の被災地では、阪神・淡路大震災東日本大震災など過去の災害の教訓を踏まえ、新たな試みも導入された。仮設住宅にそのまま被災者が住み続けられるようにするなど、コミュニティーの維持を目指したのが一例だ。

 一方で、仮設住宅の約8割は自治体が民間などの住宅を借り上げる「みなし仮設」が占めた。落ち着いた暮らしを早く取り戻せる利点はあるが、住民同士のつながりが失われ、孤立感を深めていく問題も指摘された。仮住まいを終えても生活再建が難しい人は少なくない。被災者を息長く見守る仕組みが欠かせない。

 今年元日には能登半島地震が発生した。倒壊した建物や崩れ落ちる斜面などを見て、8年前の地震を思い出した人も多かっただろう。熊本県からも自治体職員や支援団体、ボランティアらが駆けつけ、避難所運営のノウハウを伝えるなど被災者に寄り添う支援を続けている。

 とはいえ、能登の被災地でも災害関連死が出た。避難所の環境改善も行き渡っているとは言い難い。被災者の孤立や孤独死を防ぐ上でも、行政や地域による高齢者や障害者ら要援護者へのきめ細かな対応が一層求められる。熊本で得られた貴重な経験は能登の被災者に、どの程度伝わっているのだろうか。今こそ教訓を生かすべき時である。

 被災地で起きている事例は、次の災害で誰もが直面する恐れがある。兵庫県内でも最大震度7南海トラフ巨大地震が想定されている。揺れる列島に生きていることを忘れずに、備えを確実にしておきたい。