EU加盟交渉開始で記者会見する、右から
モルドバのサンドゥ大統領、
ウクライナのゼレンスキー大統領、
EUのミシェル大統領(23年11月21日、キーウで)=ロイター
第2次大戦後に東西に分断された欧州が一部とはいえ、民主主義と自由という共通の価値観と原則で統合したのは歴史的な転換点だった。当時4億5000万人を超える巨大経済圏の誕生は日本を含む世界経済にとっても追い風となった。
中東欧諸国では法体系をはじめ政治的、経済的な改革が進んだ。国により濃淡はあるが、
民主化と経済発展という果実を得たのは拡大の成果だ。
EUにはその後
ブルガリア、
ルーマニアなどが加盟し、13年に28カ国となったが、トルコなどとの新規加盟交渉は停滞。逆に英国が20年に離脱したことで27カ国体制が続いている。
加盟実現には法体系の整備や
汚職対策など取り組むべき課題は多い。見通しは不透明だが、当事国が改革を進め、経済発展することは望ましいことだ。
ロシアは
EUがさらに東方拡大することに反対し、干渉してくることが予想される。
EUは対立や分断がこれ以上先鋭化するのを避けながら地域の平和と繁栄につながるよう努力する必要がある。
EU拡大は新たな問題も生じさせた。税制や新しい共通政策の導入などの重要事項については全会一致が原則だが、
ハンガリーのように
権威主義的な政権の誕生で合意できない場面が増えている。
ただ、
ウクライナ侵略は求心力を強める要因に働いている。
ウクライナと
モルドバは加盟申請からわずか2年足らずの23年末に加盟交渉開始が決まった。全会一致の原則を見直す案も浮上している。
6月には
欧州議会選がある。自国優先を掲げる政党の躍進が予想されているのは心配だが、
EUはこれまで多くの課題に妥協を見いだす柔軟性を発揮してきた。
そのためにはドイツやフランスなど域内大国の
指導力がますます重要になる。この20年の経験と教訓をいかし、より強い
EUに向け改革が進むことを期待する。