防災力の強化促す火山本部を(2024年5月1日『日本経済新聞』-「社説」)

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火山調査研究推進本部の看板が新たに披露された(1日、東京都千代田区
 全国の火山の観測や研究を一元的に統括する政府の火山調査研究推進本部(火山本部)が発足し、本格的な活動が始まった。夏ごろをメドに調査観測計画をまとめ、111ある活火山の噴火の切迫度に関する評価を進める方針だ。
 日本では火山災害が繰り返し起きてきたが、観測や研究の体制は手薄だ。課題の解決に取り組むとともに、気象庁や大学、自治体との連携を進め、火山に対する防災力の強化につなげねばならない。
火山本部は文部科学省に設置され、司令塔としての役割を担う。モデルになったのが1995年の阪神大震災を受け発足した 「地震調査研究推進本部」だ。地震を起こす活断層や海溝の調査が進み、危険度評価などで成果を上げた。
地震より30年ほど遅れたとはいえ、火山本部が発足した意義は大きい。関係省庁と連携しつつ十分な予算と人員を確保してほしい。
 従来、大学や気象庁、研究機関が個々に火山の調査や研究を進めてきた。知見の共有や相互評価の機会に乏しく、連携不足だった。国立大の法人化に伴う予算削減もあり、弱体化が急速に進んだ。
 2014年の御嶽山噴火では63人の死者・行方不明者が出たほか、18年には草津白根山本白根山が噴火し12人が死傷した。
 まず、取り組むべきは調査と観測の強化だ。50の活火山については24時間体制で観測している。不十分な火山も少なくない。
 100人ほどしかいない研究者の充実も不可欠だ。米国と違い、非常時に大勢の研究者を火山に送り込める状況にはない。文科省は24年度から、他分野の理工系人材を対象に火山について大学で学び直すプログラムを提供する。こうした取り組みを広げたい。
 自治体職員も経験や知識に乏しい面がある。活発でない火山がある地域は対応も遅れがちだ。専門家の採用も増やすべきだ。
 大きな火山災害が起きれば、広い範囲で社会や経済活動に影響する。平時からの地道な備えがいざというときにものをいう。