犯罪や交通事故遺族の8割が「被害補償を受けていない」 生活を立て直すにもお金が必要なのに…(2024年4月5日『東京新聞』)

 
 犯罪や交通事故の被害者・遺族の8割が、加害者からの賠償や行政の給付金などの金銭的補償を受けていないことが、警察庁の調査で分かった。加害者から損害賠償を支払われるケースは3.1%にとどまっており、被害者らへの支援が行き届いていない実態が浮かび上がった。
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 調査は被害者・遺族への支援策を検討するため、昨年12月中旬~今年1月上旬、インターネットを通じて実施。自身を被害者や遺族だと答えた819人分(警察への被害未相談者も含む)を分析した。

◆ストーカーとDVは9割が補償なし

 賠償や給付を「何も受けていない」と回答したのは79.9%。犯罪類型ごとでは「性的被害」に遭った人の95.0%、「児童虐待」被害者の93.6%、「ストーカー」被害者の92.0%、「配偶者暴力(DV)」被害者の90.4%が金銭補償を受けていなかった。
 加害者側との損害賠償に関する訴訟や交渉の実施状況では、88.0%が「訴訟や交渉などをしていない」と回答。その理由について、3割強が「どのような手続きを取ればいいか分からなかった」、3割弱が「加害者側とこれ以上関わりたくない」と回答した。
 被害者支援を巡っては、法務省が、加害者側との交渉など民事手続きを弁護士が一括して担い、原則公費負担とする「犯罪被害者等支援弁護士制度」の創設を進めている。警察庁の担当者は「関係省庁と連携し、加害者の損害賠償責任の履行も含めた支援策を充実させていきたい」としている。(小倉貞俊)
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民事訴訟に勝っても、支払われることは少ない

 「被害者や遺族には、生活を立て直すための迅速な金銭的支援が重要」。今回の警察庁調査で、企画分析会議委員を務めた「被害者支援都民センター」の犯罪被害相談員中土美砂さん(54)はこう強調する。
犯罪被害者の支援の現状について話す中土美砂さん=4日、東京都千代田区の被害者支援都民センターで

犯罪被害者の支援の現状について話す中土美砂さん=4日、東京都千代田区の被害者支援都民センターで

 被害者、遺族の大半が金銭補償を受けていない現状を「加害者に損害賠償を求めるための民事訴訟は、弁護士を依頼する費用がかかるため躊躇(ちゅうちょ)する人が多い。国などの給付金も支給要件が厳しく、利用しづらい面がある」と課題を挙げる。たとえ民事訴訟で勝っても、加害者の経済事情などから実際に支払われるケースは少ないという。

◆「行政が立て替える制度の導入を」

 自身も20年前、当時4歳だった次男を交通事故で亡くした遺族当事者だ。「子どもの葬儀代や弁護士費用捻出のため、貯金を取り崩し、周囲の援助にも頼らざるを得なかった」とつらい経験を振り返る。
 今後の施策について「自治体ごとに差が出ないよう、行政の給付制度は利用要件の緩和が必要。(兵庫県明石市が導入している)賠償金が支払われない場合に行政が立て替える制度を、国にも導入してほしい」と提言し、こう続ける。
 「犯罪の被害者には、いつ、誰がなってもおかしくない。被害者を専門的にケアする行政組織づくりが急務です」(小倉貞俊)