◆原料に杉皮や竹の繊維、野の花も
仁行川のほとりに立つ木造の小屋。コウゾの繊維と顔料を混ぜた原料を「すき舟」と呼ばれる水槽に入れ、遠見さんが簀桁(すけた)ですくい上げる。仕上がった和紙は厚手の風合いを醸し出していた。「素材自体の特徴を出した紙作りを心がけている」と話す。
工房で紙すき作業に取り組む遠見和之さん=石川県輪島市三井町で
能登仁行和紙はコウゾなどの伝統的な材料のほか、杉皮や竹の繊維を使ってすき上げる。遠見さんの祖父、周作さんが戦時中に旧満州で竹を材料にした紙すきを見たことで、1949年に始めた。原料に珠洲焼で使う珪藻土(けいそうど)や工房周辺に咲く花、サクラガイなどを混ぜ込んで独特の風合いを出した和紙が人気を集めている。
◆水タンク、かまどを手作業で修復
被災したのは、工房で和紙製品の仕分け作業をしていた元日。外にあった水のタンクが壊れ、大量の水が工房内に浸入してきた。れんが積みのかまどやコンクリートブロックでできた乾燥機の土台も壊れた。2月に入って復旧作業を始め、壊れた箇所を手作業で直した。3月5日、ようやく制作作業を再開した。
地震前は能登の祭りに登場する灯籠の一種「キリコ」に使う和紙のほか、壁紙用の厚手の和紙などの注文を受けてきた。被災後は応援の注文が全国から殺到。「2~3カ月は発送できないくらい」と、寄せられる善意をかみ締める。
◆親子3代の技 銀座で個展開催へ
「建物が無事だったので再開することができた。(和紙づくりを)延々と続けられるようにしたい」と力を込める遠見さん。4月5~13日には、東京・銀座のギャラリー「エクリュ+エイチエム」で個展を開く。