同性パートナー訴訟(被害者給付金)に関する社説・コラム(2024年3月27日)

 

同性パートナー訴訟 権利守る法整備を急げ(2024年3月27日『茨城新聞』-「論説」)

 

 20年以上も生活を共にしたという同性パートナーを殺人事件で失った男性が犯罪被害者等給付金支給法に基づく遺族給付金を受け取れるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁は「同性カップルも支給対象」とする初判断を示した。同性同士を理由に支給の対象外とした二審名古屋高裁の判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。

 犯給法は犯罪被害者の遺族に給付金を支給すると規定。婚姻届を出していなくても「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」を対象に含めるとしている。法律婚だけでなく、事実婚にも救済を広げる狙いがあり、訴訟では同性間の関係も、これに含まれると解釈できるかが争点となった。

 最高裁判決は、異性間のみが婚姻制度の前提になっているとして同性間の事実婚は認められないとした下級審の判断を覆した。ただし原告の男性が事実婚といえる状況にあったかを判断するため、差し戻した。各地で、同性婚を認めない民法などの規定は違憲同性カップルが訴えを起こし、違憲違憲状態の判決が相次ぐ中、今回の判断は影響を及ぼしそうだ。

 性的指向性自認は本人の考えや努力で変えられるものではなく、それゆえに不利益が生じるのは看過し難い。だが国会の動きは鈍い。性的少数者の権利を守るため、速やかに法整備に取り組むことが求められよう。

 男性は同性パートナーを殺害され、愛知県公安委員会に遺族給付金を申請したが、同性同士を理由に不支給裁定を受け、2018年に提訴。「犯罪被害でパートナーを失う経済的、精神的損害は異性、同性のカップルで差異はない」と訴えた。しかし一、二審判決はいずれも、これを退けた。

 最高裁大法廷は昨年10月、自認する性別が出生時の性別と異なるトランスジェンダーによる戸籍上の性別変更に際し、生殖能力を失わせる手術を求める性同一性障害特例法の規定を違憲、無効とする決定をした。その少し前には、トランスジェンダー経済産業省職員が職場でトイレ使用を不当に制限されたと国に処遇改善を求めた訴訟で、職員の逆転勝訴となる最高裁判決も出ている。

 今回の判決も、性的少数者を擁護する司法判断の流れの中に位置付けることができるだろう。また同性婚訴訟では、札幌高裁判決が婚姻の自由を定めた憲法の条項について「同性婚も保障すると理解できる」との判断を示している。

 一方、東京都渋谷区と世田谷区が15年、同性カップルを婚姻に相当する関係と公認する同性パートナーシップ制度を導入して以来、各地に同様の制度が広がってきた。犯罪被害者の遺族らに給付する支援金や、災害で亡くなった人の遺族に支給する弔慰金の対象に同性パートナーを含めている自治体は少なくない。

 さらに同性パートナーを配偶者として扱い、扶養手当や休暇などを認める自治体や民間企業も増えつつある。そんな中で手をこまねいているのは国会だけだ。怠慢のそしりは免れないだろう。

 問題はまだある。日弁連の調べでは、犯給法と同じ文言で公的な給付の対象などを規定する法令は厚生年金保険法労働者災害補償保険法、公営住宅法など200以上に上る。同性同士を理由に不利益を被ることがないよう、適用の是正などの対応も必要になろう。

 
被害者給付金 性的少数者を守らねば(2024年3月27日『東京新聞』-「社説」)
 
 殺人事件の遺族として同性パートナーが犯罪被害者給付金の支給を求めた訴訟で、最高裁は「同性パートナーも支給対象」と初めての判断を示した。給付対象である「配偶者」を幅広く認めた点で評価する。性的少数者を経済的・精神的に守る制度であるべきだ。
 名古屋市に住む原告は同性パートナーと20年以上、生活していた。母の介護で3人の暮らしだったこともある。2014年にパートナーが殺害されたことで、愛知県公安委員会に犯罪被害者の遺族として給付金を申請した。
 犯罪被害者等給付金支給法(犯給法)に基づく「配偶者」とは、婚姻届を出していなくても「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」を含むと定めているからだ。
 刑事裁判の判決でも、原告の同性パートナーとの関係は「夫婦同然の関係」と認定されていた。支給対象となって当然であろう。だが裁定は「不支給」だった。
 一審名古屋地裁、二審同高裁とも「内縁関係に同性間の関係は含まれない」として原告の求めを退けた。二審では「同性パートナーが異性婚姻関係と同視する社会的な意識が醸成されていない」とも述べたが、この論理は、多数派の理解が十分でないなら保護に値しないと突き放すことではないか。
 最高裁の判断はまず犯給法の支給制度について「遺族の精神的、経済的打撃を早期に軽減する」ことが目的であると示した。
 さらにその軽減の必要性が「犯罪被害者と共同生活を営んでいた者が、異性であるか同性であるかで異ならない」と述べた。まっとうな判断である。
 審理を高裁に差し戻したのは、「婚姻関係と同様の事情にあった」かの審理を尽くすためだ。早期の解決を望みたい。
 犯給法にある「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」という文言は、厚生年金保険法や育児・介護休業法など約230件の法令にある。
 今回の判決は犯給法に限ったものだが、法令解釈の上で、その影響力は意外と広がるかもしれない。つまり同性カップル事実婚と同様に法的保護の対象になる場合もあるだろう。
 同性間の共同生活に対する理解は社会で相当に浸透している。少なくとも、司法は性的少数者に対する差別や偏見の解消に向けて動くべき時代である。