日銀が1日発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)は、景況感を示す最近の業況判断指数(DI)が中小企業では製造業と非製造業ともに悪化した。人手不足が深刻な企業が多い中小では、人件費など高騰するコストを販売価格に転嫁しづらく、今後の景気に暗雲が立ち込める。(白山泉)
◆なんとかコロナ禍しのいだが…
切削(せっさく)加工部品を手がける都内の町工場経営者は身構える。コロナ禍を経て売り上げは減ったが、従業員が減りなんとか増益を確保。ただ今後も賃上げを継続できるかは景気の先行き次第で、不安もある。
超円安を追い風に大企業を中心に好調な業績が目立つが、代表的な指数である大企業製造業は前回調査(2023年12月)から2ポイント下落しプラス11と4期ぶりに悪化した。ダイハツ工業などで起きた認証不正による自動車生産の低迷が響いた。それにつられる形で中小の製造業も4期ぶりに落ち込み、前回から3ポイント下落のマイナス1だった。
一方、非製造業では大企業が好調なインバウンド(訪日客)などを背景に8期連続の改善となる一方、中小では1ポイント悪化するなど明暗を分けた。背景には中小の方が人手不足による人件費の高騰を受けやすいという事情がある。
今回の短観では、人員の過剰と不足の差を示す雇用人員判断は、大企業と中小を含む全産業で不足感が1ポイント強まりマイナス36に。先行きでは、特に中小の非製造業の不足感が3ポイント拡大しマイナス50を見込み、より深刻化する気配すらある。
政府が目指す賃金と物価の好循環の実現には、中小が人件費を販売価格に転嫁して、賃上げを持続して行えるかが鍵となる。
◆好循環から取り残される不安
現時点では、中小を中心に価格転嫁が十分ではないとみられる。帝国データバンクが今年2月に行った調査では、自社商品・サービスでコスト上昇分を多少でも価格転嫁できている企業は75%に上る。だが100円のコスト上昇のうち、販売価格に転嫁できたのは40.6円分にとどまり、昨年7月(43.6円)からむしろ悪化している。
「景気自体は良くなっていると感じるが、(取引先の)一部の大企業は依然、人件費の価格転嫁を認めることに厳しい姿勢だ」と中小のサービス業経営者。大企業に比べ、賃金と物価の好循環から取り残される不安が強い。
帝国データの調査担当者は「価格転嫁を適正に進めるためにも、消費の引き上げが不可欠」と、消費者の所得増加に向けた政策が必要だと指摘する。
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