賃上げに苦悩…余力がない中小企業経営者の板挟み 価格交渉で強く出られず「好景気の実感はない」けれど(2024年3月24日『東京新聞』)

 
 大手企業の大幅な賃上げが相次ぐ今春闘では、中小企業も個々の経営状況にかかわらず賃上げを迫られている。人手不足にあえぐほか、原材料費や人件費の上昇分を販売価格に十分転嫁できない課題も抱え、賃上げの余力に乏しい企業は少なくない。(鈴木太郎、砂本紅年)

◆今年も賃上げせざるを得ない状況、ではある

商品の値上げや賃上げに関する悩みを語る大崎商会の吉田進太朗社長

商品の値上げや賃上げに関する悩みを語る大崎商会の吉田進太朗社長

 「中小企業は価格交渉で大手ほど強く出られない。同業の中でも値上げはできている方だが、仕入れ値と人件費の全ては吸収できていない」。東京都品川区のねじ商社「大崎商会」の吉田進太朗社長(35)は悩ましげに語る。
 役員含め15人が働く同社は、メーカーから仕入れた1000種類以上のねじを、自動車部品や電子部品の製造会社に販売する。吉田社長によると、ねじの原材料価格は4年ほどで3割ほど上昇。燃料代の高騰や人手不足にも悩むメーカーの要望をなるべく受け入れ、販売価格を順次引き上げてきた。
 大手の賃上げムードにも押され、昨年は基本給の底上げに初めて踏み切った。最近の物価上昇から、今年も賃上げせざるを得ない状況と認識している。ただ、ねじ業界の売り上げは低調で、「好景気の実感はない」。得意先が離れる不安から交渉で思い切った値上げはできず、「利益率を下げて何とか対応している」。

◆「大手とは別次元」の中小 格差拡大への懸念

 今月13〜15日、城南信用金庫(品川区)と東京新聞が実施したアンケートによると、同信金と取引のある東京都と神奈川県の中小零細企業811社のうち30.9%が「賃上げの予定なし」と回答した。「賃上げをする予定」と答えた36.0%の企業の多くも、「従業員の意欲向上と人材定着」が理由で、人材のつなぎ留めに必死だ。
 個別企業から聞き取った声も「大手とは別次元」(目黒区・婦人服卸売業)、「ニュース番組などで大手の賃上げを見て、従業員がどう感じているか不安」(世田谷区・酒販売業)など格差拡大への懸念が寄せられた。大手への人材流出や、慢性的な人手不足に悩む企業も目立ち、賃上げの原資や人材確保のための補助金や制度拡充を国に求める声が相次いだ。