玉川上水緑道の樹木守った住民の声 渋谷区が方針転換、伐採予定の8割残す 今後は維持管理が課題(2024年5月6日『東京新聞』)

 
住民らの声で伐採計画が見直されることになった「玉川上水旧水路緑道」の樹木=4月25日、東京都渋谷区で(松崎浩一撮影)

住民らの声で伐採計画が見直されることになった「玉川上水旧水路緑道」の樹木=4月25日、東京都渋谷区で(松崎浩一撮影)

 東京都渋谷区は、地下水路となった玉川上水の上の緑道(笹塚-代々木、2.6キロ)の再整備で、当初伐採を予定していた樹木158本の状態を再調査し、8割以上の134本を残すと決めた。方針転換には「木を残して」という住民たちの働きかけがあった。4月24日に開かれた周辺住民への説明会で、長谷部健区長は「ロープを張ったり、添え木をしたりして残せる物は残す。地域にさらに愛される緑道を目指したい」と説明した。(中村真暁)

玉川上水旧水路緑道の再整備事業 緑道は1982~85年度に整備された。傷みや老朽化が進み、東京都渋谷区が農園や遊び場、広場などを再整備する。2024年7月以降、笹塚、大山、幡ケ谷の各緑道で着工予定で、総事業費は約100億円を見込む。

 緑道は、渋谷区内の笹塚、大山、幡ケ谷、西原、初台、代々木の6地区を通る「玉川上水旧水路緑道」。昨年11月~今年1月、区の委託を受けた一般社団法人街路樹診断協会の樹木医2人が、都のマニュアルに基づき調査。樹木の健全度は2019、20年の前回調査時より13本で下がったものの、30本で向上したと判断した。
 前回調査では緑道沿いの全1235本のうち189本を不健全などとし、31本を既に伐採した。残る158本について、可能な限り残す方法を検討。枝の間引きなどで倒木を避け、病虫害への対策や土壌改良などをする。倒木などの恐れが残る樹木については、伐採後の4本の切り株から伸びた芽を育てる「萌芽(ほうが)更新」をし、20本を植え替える。
新緑が生い茂る玉川上水沿いの緑道=4月25日、東京都渋谷区上空で、本社ヘリ「あさづる」から(中西祥子撮影)

新緑が生い茂る玉川上水沿いの緑道=4月25日、東京都渋谷区上空で、本社ヘリ「あさづる」から(中西祥子撮影)

 伐採に反対してきた「玉川上水緑道利用者の会」から相談を受けた千葉大の藤井英二郎名誉教授(環境植栽学)は、昨年6月に現場を視察。伐採が必要な樹木はほとんどなかったと確認した。会は藤井さんから樹木の管理方法を学ぶツアーなどを緑道で開いてきた。
 会の高尾典子さん(58)は「自分も含め、議会へ行ったこともなかった住民たちが自主的に傍聴し、他の人に議論の様子を伝えた。他区の状況を調べたり、区に情報公開を求めたり、皆で手を携えて取り組んだ」と振り返る。昨年9~10月の区議会定例会では、樹木の丁寧な調査を求める請願を全員一致で採択した。

◆路面温度を下げるためにも有効

 高尾さんは区の方針転換について「伐採本数が減ったのは良かったが、伐採されることになった木の多くがこれまでの区の管理で病気になった。今後の維持管理を注視したい」と語る。
 藤井さんは取材に「木を残す観点から、1本ずつ対応している」と区の対応を評価。樹木を残す意義は、住民に愛されてきた木を大切にする視点だけでなく、地球温暖化が急速に進む中で路面の温度を下げるためにも有効と指摘。「区は維持管理を改善し、住民も緑道の管理体制をチェックする視点を持ち続けてほしい」と話した。