短観4期ぶり悪化 楽観視できぬ働き手不足(2024年4月6日『福井新聞』-「論説」)

日本経済新聞

 

 新年度を迎えた1日、福井をはじめ全国の企業で入社式が行われた。多くの若者が社会人としての活躍を誓ったこの日、日銀が発表した全国企業短期経済観測調査(短観)では、深刻な人手不足が改めて浮き彫りとなった。企業には景況感の数値以上に重い足かせとなっており、構造的課題の解決に向け注力すべきだ。

 全国でみると、景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業で2023年12月の前回調査から2ポイント下落のプラス11となり、4四半期ぶりに悪化した。ダイハツ工業などトヨタ自動車グループで相次いだ認証不正問題による生産停止が響いた。

 福井をはじめとする北陸3県の短観も企業の景況感は4期ぶりに悪化。こちらは能登半島地震による生産や需要の落ち込みが影響した形だ。

 ただ、全国的には一時的な影響にとどまるとの見方が多い。北陸は、北陸新幹線延伸や「北陸応援割」への期待がある半面、地震の影響の広がりを注視しなければならないだろう。

 気になるのは社会全体を覆う人手不足感だ。雇用人員の過不足感を示す指数の先行きは全国の大企業製造業がマイナス18、同非製造業もマイナス37。中小企業は全産業でマイナス43とさらに逼迫(ひっぱく)感が強い。

 既にあらゆる産業が人手不足に直面し、企業は人材の獲得へ賃上げが欠かせなくなった一方、円安の根強さから原材料費の上昇といったコスト増が重くのしかかっている。経費抑制の自助努力が限界を超え値上げする企業が相次いでおり、顧客離れにつながりかねないジレンマを抱える。経営環境は楽観できない状況だ。

 東京商工リサーチによると、23年に人手不足に関連した倒産は前年の2・5倍の158件に上り、調査を始めた13年以降で最多だった。さらには、働き方改革関連法に基づく時間外労働(残業)の上限規制が1日、自動車運転業、建設業、医師などに導入された。残業規制により、人材確保に人件費がかさむなどし、資金繰りが一段と厳しくなり、倒産や休廃業が増える可能性があるとの指摘も聞かれる。

 働き手が今後ますます減っていく中で、新入社員をはじめ中堅やベテランを含めた労働力の向上が欠かせない。官民挙げた働き手のリスキリング(学び直し)の推進や、デジタル技術の導入による生産性向上が急務だ。外国人の雇用環境の改善なども含め、労働政策の多角的な改革を進めるべきだ。