NHKはことし2月から3月にかけて、東京大学の関谷直也教授の研究室と共同で能登半島地震で被災した能登地方の合わせて258人を対象にアンケートを行いました。
この中で、自宅の耐震工事について聞いたところ、
▽「耐震工事をしなかった」が71%、
▽「耐震工事をしようとしたができなかった」が5%で、
能登半島地震の発生時、多くの人が耐震化されていない住宅に住んでいたことが分かりました。
一方、
▽「もともと耐震性がある」は7%、
▽「能登地方で地震活動が活発化した2020年12月以前に耐震工事をした」は6%、
▽「2020年12月以降に耐震工事をした」と「建て替えたばかりで問題ない」がいずれも3%でした。
そのうえで「どのような災害で自宅が被害を受けると思っていたか」については、「被害を受けると思っていなかった」が45%と最も多く、「地震での倒壊」の35%を上回りました。
このほか、「津波の危険」が22%、「土砂災害の被害」が12%となりました。
自由記述で、輪島市の80代の女性は「その後の地震があるたびに自宅の傾きが増して怖い。耐震工事をしたらよかった」と悔やんでいました。
珠洲市の70代の男性は「いくらかかるか分からないのに耐震工事をしろと言われてもイメージを持ちづらい。行政がモデルケースや予算などを示してほしい」と答えていました。
専門家「高齢化や過疎地域の防災 全国共通の課題」
今回のアンケート結果について災害社会学が専門の東京大学の関谷直也教授は「数年前から能登地方で地震が繰り返し起きる中でも地震への備えが不十分であったのは、1回、地震があるとそれで終わりだと思い込んでしまい、今後また被害を受けると考えるのは非常に難しいことが示されている」と分析していました。
そのうえで「高齢化や過疎が進む地域で耐震化されていない住宅が多くなっていて、こうした地域での地震防災をどのように進めていくかが全国共通の課題となっている。災害に関心が薄い人に対し、耐震診断や耐震工事に積極的に取り組んでもらうための広報や支援が行政には求められている」と述べ、能登地方をはじめ、過疎・高齢化が進む全国の地域で行政が率先し地域の防災力を強化していく重要性を強調していました。
築100年以上も 耐震工事行い倒壊免れる
アンケートに回答した大工佳子さん(62)の石川県輪島市にある自宅は築100年以上がたちますが、耐震工事を行っていたため倒壊を免れることができたということです。
大工さんの家族は、輪島市河井町で江戸時代から続く老舗の「塗師屋(ぬしや)」として輪島塗の製造から販売までを手がけ、工房が併設された築100年以上の木造住宅に住んでいます。
地震の発生当時、大工さんは自宅の2階にいたということで「体が飛ばされそうな大きな揺れでソファにしがみつくのが精いっぱいだった。自宅が倒壊せず安心しました」と話していました。
今回の地震で近所のほとんどの住宅は倒壊してしまいましたが、耐震工事をしていた大工さんの自宅は壁のひびや瓦の落下など一部が損壊する被害はあったものの倒壊は免れました。
大工さんは17年前、輪島市で震度6強の揺れを観測した地震で家じゅうの壁が崩れ落ち「半壊」と判定されたため耐震工事を行いましたが、葛藤もあったといいます。
能登地方の伝統的な日本家屋は祭りなどの際、隣り合った部屋を隔てるふすまを取り外し広い部屋として使用できるよう作られていますが、耐震工事ではふすまをふさぎ、壁にする必要がありました。
大工さんは「壁を入れてしまうと、部屋が閉鎖的になるので最初は納得できなかったが、安全が保証できないと言われ工事を決めました」と話していました。
大工さんの場合、自宅の修繕や耐震工事には家を建て直す以上の費用がかかったということですが、工事に踏み切ったのは長い歴史のある家を守っていきたいという強い思いがあったからだといいます。
大工さんは「古いもののよさは時間とともに出てくるので、先祖が守ってきた家を残したいと思いました。工事費用は大変でしたが、無事に残ってくれて本当にありがたいです」と話していました。