群馬県桐生市の異様な「生活保護」違法運用の実態とは?(2024年5月6日『週刊金曜日』)

 

4月5日、群馬県の担当者に要請書を渡す全国調査団メンバー。左から尾藤廣喜弁護士、稲葉剛さん、雨宮処凛さん。(撮影/田川英信)
 
 群馬県桐生市が一部の生活保護受給者に対し、生活保護費を1日につき1000円ずつ窓口で分割支給。しかも当月中に支給すべき保護費を渡さなかったほか、過去数十年にわたり生活保護世帯から預かった印鑑を合計1948本も保管したうえで、本人の同意なく押印していた、などの疑いが昨年秋に表面化した。事態を重く見た研究者や弁護士らが「桐生市生活保護違法事件全国調査団」(以下、全国調査団)を結成。同市や群馬県に公開質問状を送り、情報公開請求をするなどして調査を進める中、数々の問題が浮上している。
 全国調査団によると、桐生市では2011年からの10年間で生活保護利用者が半減。特に母子世帯は11年の26世帯が22年には2世帯まで急減していた。全国的に貧困が拡大する中では異例とも言えるが、ほかにも辞退届の提出や施設入所を理由とする保護廃止が多いことや、新規の生活保護面接相談のほとんどに警察OBが同席して家庭訪問にも同行。就労支援相談員や生活困窮者自立支援の窓口にまで警察OBを配置しているなどの特異な実態が明らかになった。
 しかも利用者に対しては家計簿の提出を指導のうえ100円単位まで細かくレシートをチェック。さらには生活保護世帯の13・9%が同市の勧めにより保護費を民間の金銭管理団体に委託するなど、家計支出を徹底的に監督・管理するシステムを作り上げていたこともわかった(※)。住民を支援する行政ではなく、支配する行政に変わっていたのだ。
後を絶たない“水際作戦”
 全国調査団は4月4日・5日の両日、現地へ乗り込んだ。桐生市は「第三者委員会で調査中」だとして対応しなかったが、群馬県は場を設けて懇談に応じた。
 懇談の席で全国調査団は、3月に山本一太知事あてに送った公開質問状をもとに県の生活保護担当の課長らに要請を行なった。公開質問状では桐生市ホームページ上の生活保護の説明に不適切な記載(居住用不動産は原則として保有が認められることが伝わらない、など)があるのを指摘しなかった理由などを質した(この点は県側から連絡を受けた桐生市が3月21日付で全面改訂)。
 県の担当者は桐生市が保護費を全額支給しなかったことの違法性について「記録上は保護費を全額支給した形になっていたため、監査でも問題があると見破れなかった」と対応が不十分だったことを認めた。
 問題は県によるこうした監査のあり方にもあったようだ。つまり濫給(保護費を必要としない者が受給)防止のための監査ばかりを重視し、漏給(保護費が必要な者に届かない)防止という観点での監査が著しく弱い。
 県は監査で辞退廃止が多いことを5年連続で桐生市に指摘していたが、改善されないのに放置していた。また、支給すべき通院交通費が支給されていない実態も全く把握していなかった。
 実のところ、群馬県内における生活保護に関する問題は桐生市に限らない。申請の段階で自治体側がそれを拒む「水際作戦」などと呼ばれる違法・不適切な制度運用は県内の各地で(より正確に言えば全国各地でも)後を絶たない。
 今回の桐生市の違法については住民側に「市からの仕返しが怖い」という躊躇いもある中、群馬県内で長年にわたって生活困窮者支援を続けてきた司法書士の仲道宗弘さん(群馬司法書士会副会長)が被害者の相談を受け、行政に働きかけ世間にも発信したことから世に知られるようになった。すぐに桐生市がホームぺージ上の記載を改めただけでなく、各自治体のホームページ上における生活保護案内の状況が報道された直後に、渋川市がホームページに詳細な情報を掲載するようになり、窓口で「生活保護のしおり」を配布することとした。
 仲道さんが問題の解決を見届けることができないまま3月20日に急逝したのは大変残念なことだった。桐生市群馬県、そして各自治体にも真摯に改善を求めたい。
 
田川英信・生活保護問題対策全国会議事務局次長