耐震基準見直し 命守る方策を探りたい(2024年3月26日『北海道新聞』-「社説」)

 建物の倒壊が相次いだ能登半島地震を踏まえ、国が専門家らによる有識者会議を設け、被害状況の調査に乗り出した。現地調査は2016年の熊本地震以来となる。
 建物の被害の程度と耐震性の関係を調べ、建築基準法に基づく耐震基準や改修方法が適切かどうかを検証する。徹底した調査と分析を行い、人命と財産を守る対策を講じてもらいたい。
 1981年に定められた現行の耐震基準は、震度6強~7程度の揺れでも倒れないと想定しているが、今回の地震ではその基準を満たした建物でも被害が出た。
 建物の高さや鉄筋・木造などの構造、地盤の違いに応じた基準の分類や対策が十分かつ適正なのか。丁寧な分析が不可欠だ。
 東日本大震災では津波被害が甚大だったことに加え、熊本地震でも、阪神・淡路大震災後に改めた工法に基づく改修を行った建物の被害が軽微だったことから、耐震基準の見直しは見送られていた。
 今回の地震では2020年から続く群発地震の影響も指摘されている。幅広い観点から調査を行い、改善を図りたい。
 石川県内の建物被害は7万棟以上。とりわけ、建築年代の古い木造家屋の倒壊が目立ち、珠洲、輪島、穴水の3市町の被害が甚大だったという。
 耐震基準を満たした住宅の割合は全国平均の87%に対し、珠洲市は51%、輪島市は45%だった。
 今回の地震では倒壊家屋が道路をふさぎ、救援物資の輸送や行方不明者の捜索にも影響が出た。耐震化率の引き上げは急務だろう。
 気がかりなのは、耐震化の遅れが高齢化の進む地方や過疎地で顕著に見られることだ。平均では90・6%と全国を上回る道内でも、高齢者が多い地方を中心に耐震化率が下がる傾向もある。
 住宅事情は千差万別だ。居住者の意思や地域性を尊重しながら耐震化を進めることが肝要である。
 耐震改修工事については国の補助制度があるが、高齢者だけの世帯や老朽化した建物の所有者にとって、改修の決断は重く、費用の自己負担も決して軽くない。
 居室や寝室だけを補強する方法もある。部分改修や段階的改善など、実情に応じた補助制度を充実させるべきではないか。
 建築防災の専門家からは耐震化の限界を指摘する声も出ている。地盤調査や家屋の耐震診断などの情報を共有し、屋外への避難の妥当性を検証するなど、あらゆる方策を講じて減災につなげたい。