家屋倒壊 耐震改修の推進、施策強化を(2024年2月20日『河北新報』-「社説」)

 能登半島地震では、倒壊した住宅が凶器となって多くの人の命を奪った。改めて浮き彫りになった建物の耐震性の重要さを胸に刻まなければならない。行政は耐震診断、耐震改修を進めるための施策を強化する必要がある。

 警察庁によると、能登半島地震の犠牲者のうち、調査した222人(1月30日時点)の死因は、圧死が92人と最も多く、次いで窒息・呼吸不全49人、低体温症32人、脳挫傷や失血死といった外傷性ショック28人など。年代別では90代24人、80代47人、70代56人と高齢者が多い。

 圧死、窒息・呼吸不全などはもちろん、低体温症についても、閉じ込められて救助までに寒さで体力を消耗して亡くなったと考えると、家屋の倒壊が影響している。

 石川県輪島市では大規模火災も発生した。火災から逃れるため、建物の外に避難する点でも耐震化が鍵となる。

 倒壊した建物は、耐震基準が厳格化される1981年以前の旧耐震基準の木造住宅が目立ち、新しい家は比較的被害が小さかったという。古い住宅が倒れ、高齢の犠牲者が多かったことが、能登半島地震の特徴に挙げられる。

 自然災害が多発する日本で、備えの大切さは誰もが知っている。ただ、いつ役に立つか分からない防災への取り組みは、後回しにされがちだ。

 経済的な負担の大きい耐震改修はその最たる例だろう。内容によって差があるが、工事費は100万~300万円が相場とされる。

 特に高齢化が進む地域では耐震化がなかなか進まない。子どもが家を継がず、高齢者だけの世帯になると、費用をかけて耐震改修することに意識が向かないためだ。

 災害復興の専門家からは、耐震化推進のため、国や自治体が期間限定で補助金を増額する案も出されている。働き盛りの子どもが、費用の一部を負担する「親孝行」を促す専門家もいる。

 東北6県はいずれも市町村と連携し、旧耐震の木造住宅の耐震診断と耐震改修の補助制度を設けている。能登半島地震以降、相談が増えたため、新年度での制度拡充を検討している自治体もある。

 工費の削減という切り口から、工事実績を上げた自治体の例が参考になる。南海トラフ巨大地震の被害が心配される高知県黒潮町は、補助制度を使った2018~22年の改修工事が732件に上る。

 町は工務店向けに、愛知建築地震災害軽減システム研究協議会が普及を図る低コストの耐震改修工法の講習会を開催。制度を利用した住民の48%は補助上限125万円の範囲内で工事ができたという。

 能登半島地震で、つぶれた家屋と遺族の悲しみを目にし、自宅や実家、そして家族を案じた人は多いはずだ。防災意識が高まったこの機会を逃さず、犠牲者を減らすために耐震性の向上を進めたい。