地域公共交通 「移動の保証」へ具体像を(2024年3月25日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 県や市町村、交通事業者でつくる県公共交通活性化協議会が、県地域公共交通計画の案をまとめた。

 路線バスやローカル鉄道、タクシーといった「地域の足」の維持が各地で危ぶまれている現状を踏まえ、持続可能な公共交通に向けた課題を広く共有するための計画だ。

 自家用車から公共交通への利用転換を図る、通院・通学・観光に必要な移動を保証する、といった目標を設定。2028年度の公共交通の利用者数を21年度から約4割増の1億人に引き上げる、などの数値目標も盛り込んだ。

 公共交通の大切さを再確認するのは重要だ。まず全体課題の共有を、との狙いもあるのだろう。

 だがこの計画を読んでも、「移動の保証」に向けた具体的なイメージは浮かんでこない。

 協議会の委員からは、人材獲得などについて「踏み込みが足りない」との意見も出ていた。

 近年、利用者の減少と運転手不足を背景に、県内の公共交通機関は急速に営業の縮小が進む。長電バス長野市)は今年1月から11の路線で日曜日に運休。上伊那地方のタクシー会社2社は今月で24時間営業から撤退する。

 こうした状況が続けば、地域の移動手段がなし崩しに消えていく恐れがある。今回の計画にもっと具体的な方針を盛り込み、地域の議論を引っ張っていくような発想が必要ではなかったか。

 計画案は今後、意見公募を経て6月の協議会で正式決定する段取りだ。来年度、この計画を土台に県内10広域圏ごとの地域別部会が「地域編」を策定する。

 具体像を描いていく上で、地域別部会の役割は非常に重要だ。住民、行政、事業者による活発な意見交換を期待したい。

 その議論が、利便性の向上や観光振興による活性化にとどまってはならない。深刻化する状況を正面から受け止めるのなら、地域住民にとって欠かせない公共交通とは何か、という本質論にまで掘り下げた計画を考えたい。

 人口減少が避けられない状況では、活性化が奏功して一時的に利用者が増えたとしても、いずれ経営難が再燃する可能性がある。企業の収益事業による維持が難しいとなれば、問われるのは、どこまで公的に支援していくかだ。

 欧州では、公共交通はごみ収集などと同様の公共サービスと受け止められている。日本も意識を変えるべき時に来ているのではないか。議論を積み重ね、国に投げかけていきたい。