越前市に新幹線単独駅 地域交通網の再構築必要(2024年3月25日『福井新聞』-「論説」

 北陸新幹線の越前たけふ駅は県内で唯一、既存のJR駅に併設されることなく単独駅として開業した。「丹南の新たな玄関口」とうたわれるが、地域住民はどのようにアクセスし、従来の交通結節点である武生、鯖江駅など最寄り駅との間はどう移動すればよいのか。自治体は移動の実態や要望を十分に把握し、新たな地域交通網を構築しなければならない。

 JR北陸線敦賀以北に特急は乗り入れず、従来の軌道には県や市町、民間企業がつくった第三セクターが列車を運行する。この結果、利用者が不便さを感じるのは敦賀駅の乗り換えだけではない。スピードや快適性に優れる特急が身近に走らなくなり、多くの人が鉄道の選択や駅への移動手段、行き先に応じた乗り継ぎを新たに考えなければならなくなった。

 新幹線駅には東京を結ぶ「かがやき」「はくたか」のほか、県内や北陸の各駅で停車する「つるぎ」が停車する。生活の中で従来の駅を利用していた市民が少し足を延ばそうとするとき、三セク鉄道「ハピラインふくい」に加え、つるぎが選択肢となるだろう。

 越前市街地にある武生駅と、郊外の田園地帯に開業した新幹線越前たけふ駅の距離は直線で約3キロ。この間、市はシャトルバスを1時間に1本のペースで運行している。また市観光協会の定額タクシーも利用できるが、いずれも運賃は1回500円と生活の中では高額だ。主な利用者は観光客だろう。

 新幹線駅周辺の開発は緒に就いたばかりで、駅建設に伴う新たな路線バスの乗り入れはない。市は市内各エリアで運行している市民バスの経由を見送る一方、約600台を収容する広大な駐車場を用意しマイカー利用に備えた。

 市は新年度、これからの市内のバス運行の在り方を検討し、地域公共交通計画を策定する。マイカーを持たない市民の要望を聞き取り、市民バスの新たなルートを探る必要があるだろう。

 周辺市町と新幹線駅のアクセスも住民目線で考えたい。

 鯖江市は昨年、鯖江駅東口の再整備計画を資材価格の高騰を受けて全面的に見直す判断をした。今後、市民の鉄道利用に関する調査を実施するとともに、在来線特急の廃止がまちづくりにどう影響するかも踏まえなければならない。

 こうした一方で、公共交通機関の利用者の減少や燃料費高騰、人手不足が進む中、自治体から既存バス、鉄道への補助金や運行委託費は既に膨らんでいる。今後、利用者の負担とどうバランスを取りながら、どれだけの公費を投じていくか。この点でも住民との丁寧な対話が必要だ。