国際競争力の向上と引き換えに、地方の通信網が切り捨てられることがあってはならない。
研究成果の開示や固定電話の全国提供を義務付けているNTT法について、来年をめどに廃止するよう政府に求めた自民党のプロジェクトチームの提言である。
まず国際的な共同開発の障壁とされる開示義務を撤廃する法改正を行い、来年にも外為法や電気通信事業法を改正し、NTT法の廃止を目指す内容だ。
これを受け、政府は今国会に義務撤廃と社名変更を可能にするNTT法改正案を提出した。
法廃止を巡っては、地方通信網の維持や公正な競争環境をどう確保していくかなど課題は多い。
NTTは、公社時代に国民負担で整備された電柱や管路などの設備が競争力につながっている。
政府は専門家だけでなく、国民の意見を幅広く聞き、丁寧な議論を積み重ねる必要がある。
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの通信3社は、NTTの市場支配力の強化などを挙げ、廃止に強く反対している。
携帯電話事業者は基地局と局舎との通信にNTTの光ファイバーを利用している場合が多い。
携帯通信網でもNTTの存在感は大きい。その影響力が一層強まれば、料金の高止まりやサービスの低下が懸念される。
ネット全盛の時代にそぐわない部分はあるが、肥大化の防止や競争環境の確保に一定の役割を果たしてきたNTT法の存在意義を軽視すべきではないだろう。
これとは別に、固定電話の全国提供義務の撤廃については、より慎重さが求められよう。
提言は提供義務について、携帯や衛星通信などを含めて業界全体で担うものとし、サービス提供者不在の地域では国が事業者を指定できる仕組みを求めている。
現在は過疎地でも携帯がほぼ使えるとはいえ、能登半島地震では通信網も一時寸断された。特定の手段しかないのは危うい。
デジタル機器に不慣れな高齢世帯も少なくない。義務付けの議論では災害対策も考慮すべきだ。
高速回線の未整備地域解消や、自治体が設置した回線設備の民間移行も課題となっている。
人口減の加速に伴い、地方では採算性を理由として公共サービスが次々と縮小されていくという不安に駆られている。
政府が責任を持って地方の通信サービスの維持に努めていくことが肝要である。