通信の一律サービス 携帯時代のあり方議論を(2024年3月24日『毎日新聞』-「社説」)

ほとんど見かけなくなった黒電話。通信のユニバーサルサービスは、いまも固定電話が前提だ。

ほとんど見かけなくなった黒電話。通信のユニバーサルサービスは、いまも固定電話が前提だ。

 固定電話のネットワークで全国にあまねく通信サービスを提供する。そうした現行の制度は、デジタル時代に適しているだろうか。

 通信のユニバーサルサービスの手段を携帯電話に変えるべきだと、NTTが主張している。スマートフォンが普及し、LINE(ライン)のようなメッセージアプリが重要な役割を果たしている現状を踏まえた提案だ。

 1984年に施行されたNTT法は、過疎地などの不採算地域でも、黒電話以来のメタル回線網を一律に整備するようNTT東西に義務付けてきた。旧電電公社の通信網を引き継いだためだ。

 ただ、サービス維持で生じる赤字は年500億円を超える。通信の主役が携帯に移る中、旧来の技術をいつまでも残すのは非効率だ。人口減少下で公共サービスを維持するために、コストを抑える取り組みも欠かせない。

 このためNTTは、地域ごとに最も効率的に携帯のサービスを提供できる事業者に義務を負わせる仕組みを考えている。赤字が出れば交付金で補塡(ほてん)する制度に見直すべきだと訴える。

 だが、課題は多岐にわたる。

 新たな担い手としては、地域のケーブルテレビ会社などが想定される。とはいえ、災害対策など国民の生命に関わる重要なインフラだ。経営基盤が強固な企業でなければ任せられない。

 負担のあり方も問われる。現在は電話料金に月数円を上乗せしているが、一律サービスのコストを賄う水準には程遠い。事業者の赤字の補塡は、料金の引き上げに直結する。負担を公正に分かち合う仕組みを考えるのが前提だ。

 NTTには、現行法制で課せられた一律サービスなどの責務を軽くしたい思惑がある。他の通信事業者は、制度の見直しで負担が増え、競争条件が悪化することへの警戒感が強く、反対している。事業者の利害にとらわれず、利用者本位の議論を深めてほしい。

 政府も制度の見直しに動いているが、有線のブロードバンドを軸にする方針だ。ただ、携帯端末が存在感を増す中で、より効率的な通信網を模索する必要はある。技術革新の動向や利便性を総合的に判断し、時代に即した制度を構築しなければならない。