大谷の通訳解雇 混乱収拾へ真相の公表を(2024年3月23日『産経新聞』-「主張」

 
パドレスとの開幕戦で、大谷翔平(右)とともに戦況を見守る水原一平氏(左) =20日、高尺スカイドーム(長尾みなみ撮影)

投打二刀流の大リーガー、大谷翔平の最大の価値は「夢」だ。

160キロの速球を投じ、昨季本塁打王の長打力を兼ね備えるだけではない。常に明朗、スキャンダルとも無縁で本場米国でのプレーに専念する姿は、日本人の夢であり、世界中の子供らの希望である。

全プロ競技で最高額の契約を結び、「野球しようぜ」と日本中の小学校にグラブを贈るなどの夢に満ちた寄付活動も耳目を集めた。だからこそ大谷は小学校の道徳や算数の教科書に登場し、絵本の題材となった。

違法なスポーツ賭博や高額の金銭トラブルは、この対極にある。大谷の通訳、水原一平氏ドジャースを解雇された。この問題は大谷の名声に大きな影を落とし、選手生命にも影響を与えかねない。混乱を最小限とするためにも、球団と大谷側には真相を説明する責任がある。

球団は解雇の理由について明言を避けている。水原氏は選手らを前に「私はギャンブル依存症です」と告白し、大谷側の弁護士は「翔平が大規模な窃盗の被害に遭っていることが判明した」と声明を出した。すでに内国歳入庁(IRS)が捜査中との報道もある。

水原氏はまた、米スポーツ専門局の取材に、当初は大谷に借金の肩代わりを依頼し「助けてくれた」と答えていたが、その後に撤回した。賭博業者への肩代わりの送金が事実であれば、大谷自身も何らかの責任を問われる可能性がある。

事態は深刻だが、虚偽や隠蔽(いんぺい)は傷口を広げかねない。余計な臆測を排すためにも、早期の真相公表は必須である。

水原氏は「違法とは知らなかった」とも話しているという。米国では38州でスポーツ賭博は合法だが、カリフォルニア州では違法だった。そうした複雑な背景もあるが、そもそも大リーグは関係者の賭博問題に敏感で厳格である。水原氏の立場で、この弁明は通らない。

水原氏はただの通訳ではなかった。練習相手や運転役から生活全般のパートナーも務め、ドジャースの入団会見では司会者に「翔平の最高の相棒であり、親友」と紹介された。大谷の米国での成功物語における名脇役だったともいえる。

愚かな行為は許しがたいが、罪を背負った上で更生の道を探ってほしい