障害のある人は日常生活で多くの壁に直面し、不便を強いられる。誰もが尊重され自分らしく生きることができるように、社会から壁を取り除かなくてはならない。
障害者差別解消法はこうした理念に基づき、2016年に施行された。当事者の求めに応じ壁をなくすため、国や自治体に「合理的配慮」を義務付けている。
合理的配慮は国際的な差別禁止の核となる考え方で、日本が批准した障害者権利条約に掲げられている。
「前例がない」「何かあったら困る」と要請を一律に拒否すれば、配慮義務違反の可能性がある。
事業者は負担が重過ぎない範囲で対応が求められる。食事の介助サービスのない飲食店が介助に応じるのは困難だろう。混雑する店で買い物の付き添いを求められたら、代わりに欲しい商品を取りに行くなどの工夫をしたい。
障害のない人と同等の機会を保障する考え方なので、優遇ではない。特別扱いとの批判は当たらない。
そもそも私たちの社会は、多数派である障害のない人に都合良くつくられている。少数派が不利益を被っていても気付きにくい。当事者の声に耳を傾け、状況を改善するのは当然ではないか。
合理的配慮を怠れば差別に当たる可能性がある、と認識しておきたい。22年の内閣府の意識調査では「差別に当たる場合があるとは思わない」または「どちらかといえば思わない」と答えた人が合わせて3割を超えた。
国と自治体は啓発に力を入れなくてはならない。事業所は従業員研修を通して、障害者差別の現状と解消への理解を深めてもらいたい。
合理的配慮には曖昧さがある。障害も千差万別なので、一律に判断しにくい。国は参考例を示し、関係者が建設的な対話を重ねることを求めている。
一方で曖昧さがあるからこそ、話し合いで共通理解が得られるとも言える。映画館の例では、従業員の教育や設備の改善につながったそうだ。
分かり合えないこともあるだろう。国や自治体は相談体制を拡充し、壁をなくす取り組みを後押ししてほしい。