元通訳に違法賭博疑惑 大谷選手は自ら説明を(2024年3月25日『沖縄タイムス』-「社説」)
思わず声を上げて叫んでしまうほどの衝撃的なニュースだった。余波は収まらず、その影響はさまざまな分野に広がっている。
米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の通訳を務めた水原一平氏に違法賭博に関与した疑いが浮上した。
ドジャースは問題が表面化した直後に水原氏を解雇。米大リーグ機構(MLB)は「この件の調査手続きを正式に開始した」と発表した。
2人の間に一体、何が起きたのか。
水原氏が関わったとされるブックメーカー(賭け屋)が拠点を置くカリフォルニア州では、スポーツ賭博が禁止されている。MLBの規定では「違法なブックメーカーと賭けをした選手や審判員らは処分の対象となる」と定められている。
水原氏は賭博にはまり、多額の借金をつくった。
スポーツ専門局のESPNによると、水原氏の借金を穴埋めするため、大谷選手の口座から少なくとも450万ドル(約6億8千万円)が賭け屋の口座に送金されていた。
水原氏は当初、ESPNの取材に対し、借金返済の依頼を受けた大谷選手が自らパソコンにログインし、業者に送金したと答えていた。
これに対し、大谷選手の代理人は、大谷選手のことを「巨額な窃盗の被害者だ」とする声明を発表。同じ日に水原氏も「大谷選手は何も知らない」と前言を翻した。
結果として水原氏の前言撤回が臆測を呼び、問題を複雑にした。その意味でも水原氏の罪は二重に重い。
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大谷選手は事態をどこまで把握していたのだろうか。水原氏の「前言」が事実だとすれば、違法な業者への送金が犯罪企業のほう助とみなされる可能性があるという。
大谷選手が全く何も知らなかったとすれば、「なぜ水原氏が銀行口座にアクセスできたのか」という疑問が浮上する。
ドジャースは24日(日本時間25日)から、本拠地のロサンゼルスで古巣エンゼルスとのオープン戦に臨む。
だが大谷選手の通訳を務めただけでなく練習をサポートし、生活面でのアドバイスにも応じるなど、大谷選手をさまざまな形で支えてきた「相棒」の水原氏は、もういない。
大谷選手のメンタル面に与える影響が心配だ。
日米の子どもたちにとって大谷選手は、野球選手というレベルを超えた「理想像」になっている。賭博絡みの巨額スキャンダルは、まったくふさわしくない。
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違法賭博疑惑は、その額の大きさからして庶民の生活感覚をはるかに超えている。
だが球団も大谷氏もまだ正式な会見を開いていない。
正式な説明がなければ、ファンの懸念やモヤモヤは解消されないだろう。
22日付のロサンゼルス・タイムズ紙は記者のコラムで「沈黙は臆測を招く」とし、大谷選手に説明を求めた。
同感である。ロサンゼルス市民や日本のファンのためにも。何より子どもたちのためにもと言いたい。
新天地での活躍の夢が一気にしぼんだ水原一平氏の違法賭博騒動 明るい日差しを取り戻すには、目の覚めるような大谷翔平の本塁打しかない(2024年3月25日『サンケイスポーツ』-「甘口辛口」)
■3月25日 「噓だといってよ、一平さん」。ドジャース・大谷翔平選手の通訳だった水原一平氏の違法賭博関与による解雇報道を聞いたとき、あの伝説の少年と同じ心境になった。1919年の八百長事件で大リーグから永久追放されたホワイトソックスの人気選手ジョー・ジャクソンに、少年は裁判所前で「噓だといってよ。ジョー」と叫んだ。
ジョーは「残念だけど本当なんだよ」と答えたが、一平さんも同じか。米大リーグ機構(ḾLB)は「この件の調査手続きを正式に開始した」と声明を出した。遠い異国での展開に隔靴掻痒(かっかそうよう)の思いだが、日本の国税庁にあたる内国歳入庁の捜査とともに成り行きを見守るしかない。
自身の口座から少なくとも違法ブックメーカーに450万ドル(約6億8000万円)が送金された。それが大谷にとってあずかり知らぬことであっても、「野球は天才でも金銭感覚は鈍すぎる」などと米国内では手のひら返しの批判報道も出ている。新天地での活躍の夢も一気にしぼんだことも確かだ。
時がたった今は「なんてことをしてくれたんだ。一平さん」で本来なら憎悪の念も沸くところだが、そこまで至らないフシギさもある。大谷の生活スタイルに合わせようと無理をして賭博の借金が膨らんだという。通訳のほか運転手や練習相手と献身的に支えた言動を思い出すと、ついほだされてしまうようなキャラクターにもよるのか。
28日(日本時間29日)に米国開幕の大リーグ。大谷は野球賭博に関与した証拠がなく、調査期間中も試合出場は続けられるとの見通しもあるという。モヤモヤ感をクリアし、明るい日差しを取り戻すには、目の覚めるような大谷の本塁打しかない。(今村忠)